薔 薇 色 の 地 獄 。 | ナノ
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暁に燃ゆ【4】




防御の異能。

今までのポートマフィアの中にいる異能力者とは明らかに違う。
例えば、前線に置いて幹部を守る。
例えば、首領のガードになる。

例えば。
例えば。

そんな風に中也が幾つかの案を首領へ伝えると、
首領も同じように考えていたのだろう。
ふ、と小さく笑った。

「会ってみたいねえ。そのなまえという異能力者」

中也は何も言わず、ただ恭しく頭を垂れた。






「…、…」

果たして約束通り、中也はまた檻の前に訪れていた。
なまえは何を話せばいいのかわからず、
ただじっと、ワインを飲む中也を見ていた。


じゃらり、と足枷の鎖が、空間に不釣り合いな音を立てる。
黒い淀みは絶えず、なまえの周りでマグマのように沸き上がっては沈んでいた。

何がしたいのか。

数日前に中也に問われた言葉を、
なまえは静かに反芻していた。

気がついたら、黒い何かは自分の周りに居て。
それは絶えず、自分を守ってくれていた。
父親は解らない(忘れてしまった?)
少し離れた所に居る母親は、
自分を見てはくれない。
彼女は自分の店と、そこにいる女子供が大事。

(わたしはこうして、たまに見世物にされるだけ)


何も出来ない。
何もしたくない。
そうして、ただゆるりと時間だけを浪費していっている。

「…オイ。人払いしてくれねェか」

中也が呟いた。

「なまえと。コイツと二人きりで話がしたい」


女主人は怪訝そうな顔をしたが、
中也が睨むと、そそくさと出ていった。




「……よお」

「、……」

この人の、この、粗野な喋り方は。
少し、苦手だった。

そんななまえの気持ちを汲むように。
黒い淀みの動きは、激しくなった。

「『ソレ』の機嫌も悪そうだな」
「…何をしに、来たんです、か。
わたしを笑いに、来ましたか」

「あん?」

「…わたし、は、こんなだから…」
「違ェよ」
「じゃあ、何を、」


「手前、此処から出たくねェか?」



いったい、この人は、何を言ってるんだ??

なまえの気持ちを汲むように、黒い淀みはごぼりと浮かんで、沈んだ。


「それ、は…」
「その異能込みで、ウチで雇ってやる。
その異能は使える」
「これ、と、…?」

中也が頷く。

「これ、は、気味が悪いから…」
「悪くはねェ。むしろ防御は頼りになる。
うちの異能は攻撃に特化したのが多いからな。
手前がいてくれると助かる」

「でも、うまく、使えない」
「そんなもんは訓練すればどうにでもならぁ。
なんなら俺が直々に教えてやってもいい」

でも。
でも。

言葉が続かない。
なまえが否定しようとしても、
中也はそれも全て含めた上で、
なまえを欲してくれていた。

「わたし、で、…いい、の?」


「ああ、なまえ。手前がいいんだ」




それは、疎まれ続けたなまえが、

初めて、他人に必要とされた瞬間だった。




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