暁に燃ゆ【3】
「…テメェは、自分の娘を幽閉するのか」
「…」
返事はない。
女主人は、ちらりと奥を見ると、
まるでゴミでも見るかのような、蔑んだ顔をする。
その目線に、中也の表情も僅かに歪む。
「…いつから『アレ』が出てきたのか。
それは私にも解らないのです。
ただ、なまえは…あの子はもう、
わたしの手を離れてしまった。
それだけなのです」
「何故、殺さない」
「…、それは、」
刹那。
SPの一人が、銃を構えた。
サイレンサーがついた銃。
「、オイ!」
中也の声も聞かず、引き金に力が込められた。
ぱしゅ、ぱしゅ、という小さな音。
そして。
からり、と銃弾が床に落ちる音。
「…、ハ、なんだそりゃ」
「御覧の通りです。
『アレ』が、あの子を守るのです」
「それで、殺し損ねてるってワケか」
一歩、近づく。
黒く渦巻くその『何か』は、
ぶくぶくと浮かんでは消え、
絶えずその子供の周りを囲んでいた。
「…、防御の異能、か」
ごぼり、ごぼりと沸き上がる黒い何か。
銃弾を弾いた。
その防御力、並大抵ではないだろう。
「だあれ」
声がした。かすれた、少女の声。
女主人は「私の娘」と言った。
なるほどそこには、黒い髪をたたえ、
真っ黒な瞳をした少女が、いた。
「…あなた、は、だあれ」
喋ることが久しぶりだったのか。
時折難しそうにむせながら、少女が話しかけた。
「テメェこそ何者だ?その黒いのは何だ?」
「…わか、ら、ない。気が、ついたら、」
「そこに、あった」
頷く。
「わたしが、『こんな』だから、
お客さま、が、いなくて、何もでき、なくて」
「…テメェはどうしたい」
「…どう、したい」
「このままここで飼い殺されるのがテメェの望みか?
今はまだその異能で守られてるがな。
テメェを確実に殺せる異能力だってあるンだぞ」
中也は、包帯だらけの誰かを思い出す。
あいつなら。
触れるだけで異能が無効化されてしまう、
そう、あいつなら。
「…オイ、」
中也は振り返り、女主人に声を飛ばす。
「…また来る」
それだけを言い、中也は店を後にした。
なまえ。
「…なまえ…」
彼女の名前を反芻する。
さて、これからどうしたものか。
だが。
あの防御の異能は、使える。
それは確信していた。
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