目下の泥濘【20】
「すまない。助かった、なまえ」
「これくらいはお安い御用だ。良いものが見つかって良かったな」
がさり、と紙袋を持ち直す。織田作となまえが並んで歩いている。
「織田作から『助けて欲しい』と連絡があったときは肝が冷えたぞ。また襲撃にでもあったかと思ってしまったが、…まさか、子供達へのプレゼントを選ぶ為だったとはな」
「俺ではどうもピンとくるものが無くてな…」
「まあ、女の子へのプレゼントはな…。…しかし、わたしもそこまで子供が喜ぶものが解らないんだが、コレでよかったのか…」
なまえが覗いた紙袋の中には、白いうさぎのぬいぐるみがあった。
「…喜んでくれるといいな、織田作」
「そうだな…」
そのとき、なまえのポケットの携帯電話が震えた。ディスプレイを見ると、相手は首領だった。
「、電話か…、とと」
「なまえ、俺は先に行っているぞ」
「ああ、ありがとう」
なまえから紙袋をさらりと取り上げると、織田作はフリイダムへ向かっていった。なまえは、人通りの邪魔にならないよう、道の端へ立ち止まる。
『…私だよ、なまえ』
「何か。緊急の用事か?」
首領が携帯電話へかけてくるなんて、よっぽどのことだった、気がした。
『ああ、そう、これからね。ある人に呼ばれていてね、ちょっとした会合が開かれることになったんだ。なまえには、私の護衛を頼みたいんだ。今どこかね?アジトから遠いのなら、これから迎えに行こう』
「ああ、承知した」
手短になまえは居場所を知らせると、首領はおや、と声を漏らした。
「、?どうした?」
『いやいや、なんでもないよ。それじゃあなまえ、15分ほどで着く。用事があるなら、済ませておいて欲しい。くれぐれも気をつけて』
「…、そうか。解った」
通話を終了させると、なまえは足早にフリイダムへ向かった。
店が見えてきたとき、弾かれるように織田作が店から飛び出していった。
「織田作…、?」
あんなに慌てて、どこへ?なまえはその後を追った。
店の裏の駐車場だ。
白いバンが見える。
なまえは近づいて、織田作、と呼び掛けようとした瞬間。
爆ぜた。
なまえの足元から王様が滑り出る。爆風と熱から織田作を守るように、王様のマントがふわりと翻る。なまえは織田作の名を呼び、駆け寄ろうとした、
が。
王様は首を横に振り、それを制した。
「王様、どうし…、」
爆音から耳鳴りが落ち着いた頃、なまえは、先程から続いていた音に、気づいた。
「…織田作…、…?」
それは音ではなく、織田作の慟哭だった。
息が途切れても、喉が擦りきれても、織田作は叫ぶのを、やめてはいなかった。
「……、ま、さか」
なまえは踵を返し、フリイダムの店内へ入る。荒らされた店内。カウンターの奥に横たわる、親爺さんを見つけた。
二階へ駆け上がり、子供達の部屋へ入る。
荒らされた部屋。何かを示す地図。窓は爆風で割れていた。
窓から、燃えるバンが見える。
まさか。
まさか。
「ま、さか…」
その日、
織田作の夢が、潰えた。
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