ひなたにまよう
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「エビは高いんだな、知らなかった」
「季節的には夏が旬ですからね、すみません」
「いやいや、まあこれはこれでいいか」
晩ごはんの買い出しに。
ランサーとふたりで、ビニール袋を揺らしながら歩いていた。
「名前、持ってやるよ」
「ありがとうございます。では、」
持っていた荷物を、ランサーに渡したとき。
後ろから、軽くなにかが名前の腰のあたりにぶつかった。
「わっ、」
「あん?」
名前とランサーが見やる、その視線の先には、
「ママぁ…」
一目で迷子、と解る小さな小さな男の子がいた。
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「うーん…」
男の子は、名前のスカートにしがみついて離れない。
「歩き回って探すと、かえって見つかりにくいだろう」というランサーが、母親を探しに出掛け、
名前と男の子は、商店街のスーパーの入り口で、母親が探しに来るのを待っていた。
「お母さんとは、どこではぐれたか、覚えてる?」
首を振る。
「お名前は言える?」
じっとする。
「うーん…」
なかなか手強いなあ、と名前は頭をかいた。
「見つからねえなあ。そもそも気づいてんのかもわからねえ」
「特売日で人も多いですからね、交番に行きましょうか…」
「だな、母親も来るかもしれねぇし、…」
ランサーが男の子を見る。
目が合うと、男の子はそそくさと名前の影に隠れた。
「…このやろう」
名前と男の子は手を繋いで、商店街を歩く。
名前は、めげずに男の子に話し掛けた。
「お母さんとはぐれて、寂しかったんだね」
頷く。
「わたしもね、昔、迷子になったことがあってね…。
…怖かったなあ。周りは…知ってる人が誰もいなくて、怖くて。
泣きながら、誰かいないかなあって、ずっと歩いてて」
握る手が、少し、震えていた。
「見つけてもらえなかったら、わたし、あのとき…」
「名前、」
ランサーに名前を呼ばれて、はっとする。
上げた目線の先には、交番があった。
「…、さ、おまわりさんの所で、お母さんを…」
「ママ!!」
交番の入り口には、彼の母親らしき女性がいた。
こちらを見るなり、慌てて駆け寄ってきた。
「…一件落着、ですね」
「だな」
「おねえちゃん、ありがとう…」
「うん、もうお母さんから離れちゃだめだよ」
「うん、あのね、おねえちゃんに…ひみつのおはなし」
「ん?なにかな?」
耳打ちをするような男の子のしぐさにつられてしゃがみこんだ名前の頬に、
男の子が軽いキスをした。
「な、っ!?」
「お、おいこらテメエ!!」
「ばいばい、おねえちゃん!」
さっきまで黙っていたときとは大違い。
笑顔で手を振って、母親のもとへ駆けていった。
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晩ごはんを終えて、
ソファーに二人、並んでテレビを見ていた。
「…ったく、人騒がせなガキだったな」
「ふふ、でも無事にお母さんが見つかって良かったです」
「……、」
「、ランサー?」
じっと、名前を見るランサー。
「お前、ほんと無防備すぎるよなぁ、あんな子供にまで…」
「あ、あれは完全に不意打ちですよ!
わたしだって、そんな、頬にキスされるなんて思ってませんでしたし…」
「そういうとこが無防備すぎるっつってんの!
…名前ってほんと警戒心無ぇよな…」
ゆっくり、ランサーが覆い被さってくる。
名前の視界が、ランサーでいっぱいになる。
「らん、さー…?」
「……」
ランサーの赤い瞳と見つめ合う。
少しだけ潤んだ、その瞳が閉じられるのにつられるように、名前の目も、閉じられる。
鼻先が触れあう。
おでこが触れる。
「………名前」
さっきまでとは違う、熱を帯びた声音が耳元に響く。
「、っ」
うっすらと目を開けると、いとおしそうに名前を見つめるランサーがいる。
「ランサー、あ、あの、わたし、」
「…、名前」
すがるように、名前を呼ばれる。
それが合図のように、名前はゆっくりと目を閉じる。
ランサーから、くちびるに優しいキスが訪れるまで、あと少し。
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お久しぶりすぎて申し訳ありませんでした(土下座)
甘々にしたかったんです。