ショートケーキ戦争
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しろいしろいその上に、イチゴを乗せてできあがり。
「おおお…!」
「できましたね!」
隣で見守ってくれたセイバー、
手伝ってくれた桜が歓声を上げる。
「お手伝いありがとうございました、二人とも。
さて早速ですけど、みんなお待ちかねみたいですし、食べちゃいましょうか」
「なんだかもったいない気もしますけど、そうですね。
苗字先輩、わたしお茶淹れてきますね」
「セイバーさんは人数分のお皿とフォークを出してくれますか?」
「承知しました、ナマエ」
お皿の上には綺麗にデコレートされたイチゴのショートケーキ、ワンホール。
それを見るセイバーの目はこの上なく輝いている。
作った名前本人もまんざらではないようで、すこしだけ上機嫌。足取りも軽い。
「ああでも…衛宮くんに味見してもらうのが緊張するなあ」
「先輩なら大丈夫ですよ。きっと気に入ってくれますって」
「この見た目は完璧ですからね、味も期待できそうです。
ナマエ、これは士郎の料理に並ぶやもしれません」
「うわあ、セイバーさんまで…緊張するなあ…」
「大丈夫ですって!」
果たして、名前の作ったショートケーキは大好評。
わいわいと楽しく食べている合間を見て、名前はそっと席を立った。
「さて、と」
リビングの喧騒がすこし遠くへ聞こえる台所。
流し台には山と詰まれたボウルやら泡だて器やら。
「これぐらいはひとりでやらないとね」
「おや、君も逃げてきたのか」
「ひゃ!」
唐突な声に振り返ると、赤い弓兵。
手にはきちんとショートケーキの乗った皿、そしてフォーク。
「向こうで食わんのか」
「わたしのぶんは食べましたよ。その、後片付けを先にやっておこうかと」
「皿が来てからでもかまわんだろう」
「いやでも、できるとこから片付けておきたいというか、
これだけ洗い物を作ったのもわたしですし、
そこらへんはきちんとしておかないと、と思いまして」
「ふむ、そうか」
「アーチャーさんこそ、みんなと一緒に食べないんですか?」
「…ああいう、騒々しいものは苦手でね」
「そうですか、なるほど」
「…」
「…、」
やりにくい。
とても、やりにくい。
表現しにくい視線を背中で一心に浴びながら、
名前はもくもくとボウルを洗っていた。
「あ、あの、アーチャーさん」
「なんだね」
「その、ケーキのお味は…ど、どうでしたか…」
「ふむ、そうだな、スポンジが少し固かった」
「うっ」
「逆に生クリームは緩めだったな」
「ううっ」
「あと、面倒でも挟むフルーツはもう少し小さく切ると良い」
「ううう…、ご指導ありがとうございます…」
聞かなければ良かったか、と名前はだんだんとうなだれる。
心なしか、洗い物をする手が弱弱しくなっていく。
「まあ、味は悪くない。私は好きな味だな」
がっくりと落とされた名前の肩越しに、手が伸びた。
そっと、空になったお皿とフォークが流しに置かれる。
「手伝おう」
「え、いや、あの…」
「何、美味いケーキをご馳走になったお返しだ。何をすればいい?」
「あ、あの、じゃあ、洗ったボウルとかを、拭いてください」
「承知した」
そして隣に並ぶアーチャー。
手際よくボウル類を拭いて、テーブルに並べていく。
「、名前」
「え、はい」
唐突に名前を呼ばれた。いつもは「君」としか呼ばないのに。
「アーチャー、さん…?」
「顔に泡がついているぞ」
「えっ、ど、どこですか?!」
「ついでに拭こう。目を閉じろ」
「は、はい…」
言われて素直に目を閉じる。
アーチャーの手が、優しく名前の頬に触れる。
一瞬びくりと動いたが、律儀に名前の目は閉じられたまま。
「あの、アーチャーさん…」
「静かに。目はそのまま、開けないように。少し上を向いてくれるか?」
「うう、は、早くしてください…」
そして、アーチャーはゆっくりと身をかがめ、
「はーいそこまでー」
聞き覚えのあるぶっきらぼうな声がした瞬間、名前の顔にタオルがかぶさった。
「うわ!?」
「、ランサー…!」
「ひとのマスターに何ちょっかい出してんでしょうかねえ、この赤いのは」
名前の両肩をがっちり掴んで威嚇。
青いのはあきらかな敵意をむき出しにして、赤いのを睨んでいた。
「失敬な。泡を拭いてやろうとしただけだ、青いの」
「嘘つけ!明らかにそんな風じゃなかっただろうが!」
「貴様いつから見ていた」
「あー?お前が名前の名前呼んだときぐらいか?
騒がしいのに気をとられて、気がついたらマスターが居ねえってんで探してみたらコレだよ。」
「ご、ごめんなさいランサー。心配させるつもりじゃなかったんですが」
「おう、アーチャーの野郎に何もされてねえな?」
「いや、あの、ランサー?」
「心外だな。お前、私を何だと思ってるんだ」
「何だと?」
やっとタオルから開放された名前は、
自らの頭上で繰り広げられている舌戦をどうしようかと慌ててあたりを見回す。
そこへ、食べ終わった食器類を下げにきた士郎と目が合う。
はた、と目が合うふたり。
名前を見て、そして名前を挟んでにらみ合う二人を見る士郎。
(衛宮くん!助けてください…!)
名前が涙目で訴える。
(…、苗字、ゴメン、俺には無理だ…)
すまなさそうな表情で、お皿を持ったままリビングへUターンする士郎。
(そんな…!衛宮くん!衛宮くん!助けてくださいよー!!!)
目で訴えかける名前。
だが、振り返った士郎には「ごめん」としか言われなかった。
それから凛が仲裁という名のガンドをぶちかますまで、
台所は修羅場だった、と後に士郎は語っていた。
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ちゅーはおあずけ。