微睡は水面深く。 | ナノ
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風船と缶コーヒー


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「生産性が全く無いわね」

凛はその光景を見て、呟いた。


天気のいい休日。
名前は、ランサーが釣りに行くというので着いていった。
だが、特に名前が自ら釣りをする、というわけでもなく、
ただぼんやりとランサーが釣りをしているのを見ていた。

が、

「魚が来ないと暇ですね」

「そーお?ま、俺はこれでも楽しい方だけど」
「ランサーは楽しいかもしれないですけど…、
やっぱり魚が釣れたほうが楽しいし、面白いです」
「…まあ、否定はできねえけど」

そして、名前が鞄から取り出したのは一冊の本。

「…ここで読むのかよ」
「わたしは全く気にしないし、ランサーも気にしなくていいですから。
天気のいい日に外で読書も、これはこれでいいかも」

そして、そのそばを通りかかった凛に見つかり、
さっきのセリフを言われたのだった。思い出した。


「…何か飲み物でも買わない?」
「あ、いいですよー。自販機のジュースになっちゃいますけど」
「いいわよ。ただし名前の奢りね」
「はいはい。それじゃいってきますね、ランサー」
「あいよー。アーチャーに何かされたら言うんだぞー」

「ちょっ…!ランサー!!うちのアーチャーはそんなことしないわよ!!」
「あはは、」



「で、」

手際よく自販機でコーヒーやらジュースやらを買い、
凛と名前は近くのベンチに腰掛けた。

「ずいぶんと変わったデートしてたわね、あなたたち」
「デートというか、わたしが勝手にランサーについていっただけ、だけど」
「それで仲良く釣りしてるのかと思ったら、あんた本読んでるだけだったもんね…。
もっとこう、カフェでお茶するとか、お店を見て買い物するとか、
デートらしいデートはしないの?」
「いや、デートじゃないんですよ、今日は…」

「…くくく、冗談よ冗談」
「冗談、っていう風な顔してないよ、凛ちゃん…」

「全くだ、凛。君はいつも冗談が過ぎるぞ」

頭上から声がした。見上げると、白髪の男性がこちらを見下ろしていた。

「あ、アーチャーさん、こんにちは」
「、…君は律儀だな」
「え、あ、え??」

「一応ほめてるから大丈夫よ、名前」
「あ、そ、そうなんだ…それじゃ、凛ちゃん、わたし、ランサーが待ってると思うからそろそろ行くね」
「はーい。紅茶、ありがとね。ごちそうさま」
「いえいえ。またゆっくりお茶しようね、アーチャーさんも、それじゃ」

ぺこりとお辞儀をして、ランサーのぶんの缶コーヒーを持ってぱたぱたと駆けていった。
その後姿を見送って、凛はアーチャーの方を見やる。

「ねえアーチャー、」
「なんだ?」
「アーチャーはああいう子、どう?」
「そうだな…ああいう慎ましい子も悪くないな」
「えっ」
「…聞いておいてその態度はどうなんだ」
「いや、あんた割りと本気で答えたでしょ、今」
「…」
「黙らないで。お願いだから」





バケツの中身は、名前が離れるときに見たよりも、少し増えていた。
のんびりと海を眺めているランサーの隣に腰掛けて、缶コーヒーを手渡した。

「ただいまランサー、増えてますね、魚」
「まあねー。小さいのが多いからから揚げにでもするか」
「それはいいですね。おいしそうです」
「よっし、じゃあ今日はこんくらいにしとくか」

竿を手際よく片付けて立ち上がる。

「長い時間付き合わせちまってすまねえな、名前。帰るかー」
「いえいえ、こっちは読書してましたから、気にしませんよ」
「はいはい、っと。そういや、」
「?」

「アーチャーの野郎には何もされてないか?」
「あはは、大丈夫ですよ。アーチャーさんは優しいですから」
「…、それは聞き捨てならねえなあ」

「え、なんでですか」

「名前に優しくしていいのは俺だけってことー」
「んなっ!?」

大きな手が、わしゃわしゃと頭をかきまわした。

「、ちょ、ランサー!?」
「お前はフワフワしてっからなあ。もちっと気をつけねえと」
「ふわふわなんてしてませんっ!」
「してるしてる。風船みたいだぜ名前は。俺が見とかねえとすぐどっか行くだろ」
「行ってませんよー!もー!」

そしてその手が離れて、名前の目の前に差し出された。

「…、え?」
「お手をどーぞ、お姫様」
「え、は、ええ?」
「言っただろ。俺がきちんと風船は持っとかないとねー」
「…もう、ランサーってば…」

しぶしぶ、と名前はランサーを握り返した。
けれど、大きくてあたたかいその手は、嫌いじゃない。

「名前、手ぇ冷たいなー」
「ランサーの手があったかいんですよ」

手を繋いで帰り道。

お互いがお互いの手の温度を確かめ合いながら、
ゆっくりと歩いていった。


「…赤いのには絶対渡さねえし」
「?何か言いました?」

「なんでもねえよー」



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赤い人とも絡ませたい今日この頃。
あと金ぴかも混ぜて三つ巴ですか。

どうでしょうか。


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