或いは、
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「…、」
いつもと違う帰り道、
いつもと違う道で、名前は立ち止まった。
ふと、道路の隅を見る。
電柱の陰、そこにおかれた花束。
「………っ、」
足早に、通り過ぎた。
+
自転車を停め、カゴに入れていた荷物をおろし、戸を開ける。
「ただいま」
「遅かったな、名前」
「少し、…いつもと違う道を帰りたくなって、ちょっと寄り道、を…わ、」
するりと近づいて、金の王は名前の肩に手を置く。
そのまま引き寄せて、髪にくちづける。
「名前、お主」
「なな、な、なんですか…」
「その道、何ぞ無かったか?」
「、」
思い出す。
あの、すこしだけ嫌な感じ。
「何も、ありませんでしたが…、その」
「見えなかったか。そうか」
ギルガメッシュはそのまま、何かを呟いた。
瞬間、破裂音が響いた。
「!」
肩が跳ねる。通学かばんが床に落ちる。
「い、今、…王、は、何を…」
「…何か「つれて」帰っておったのでな。消した」
「けし、え、え…」
「お前は気にするでない。我のモノに手を出すのが悪い」
「…あり、がとう、ございます…」
「気に病むことはない。名前は我のモノなのだからな」
「いえ、あの、それに関してはお断りいたします」
「照れておるのか?愛い奴よの」
「そうではなくてですね、あの…そろそろ離して…」
「ならぬ」
そのまま、腰にも手が回されて、ぎゅっと抱き込まれる。
「お前が自ら誰を選ぼうが我には関係ない」
「はあ、…王は、もしや拗ねてらっしゃいますか」
「拗ねてなどおらぬ。名前を抱きしめたい気分なのだ」
「…そうですか、あの」
「廊下の真ん中で何をしている」
ぺし、と聖書がギルガメッシュの頭に振り下ろされる。
角でないだけ、まだ優しさはあるのだろうか。
「む、綺礼か。邪魔をするでない」
「お前が私の邪魔をしているのは気づかんか。さっさと避けろ」
「綺礼、あの…わたしが」
「…、」
ちらり、と名前を見た綺礼は、ため息をついた。
「お前はどうやら好かれやすい体質のようだな。
後で何かお守りを作っておこう。これからは寄り道は禁止だ」
「好かれやすい、って…何がですか」
「今日、どこか事故の現場でも通ったか」
言い当てられて、名前の体が強張る。
「ギルガメッシュが祓ったようだが、お前はそういうモノも引き寄せるのか。
面白いな。今度竜洞寺に肝試しでも行ってみるか」
「ま、さ、か…!」
「そのまさかだ」
「安心しろ名前。お前に憑く悪い虫は、我が残らず消してくれよう」
心底嬉しそうに、綺礼とギルガメッシュが笑う。
はくはく、と二の句が告げない名前を、楽しそうに眺める似たもの同士。
「ただいまー…、って、お前ら何やってんの、廊下の真ん中で」
「ら、らんさー…」
振り返った名前が半泣きになっているのを見て、
ランサーにじわりと殺気が漂う。
「また名前イジめて楽しんでんのかお前らは」
「苛めてなどおらんよ、ちと除霊をしていたまでだ」
「除霊?…、名前、お前まさか」
「言わないでください。それ以上の詳細はダメです…」
いつだったか、幽霊の類を名前が怖がっていたことを思い出したランサーは、
「はいはい、そんじゃ晩飯の準備でもしますかね。今晩は塩サバなー」
「てて、て、手伝います…」
それ以上は聞かず、さっさとキッチンへ向かっていった。
そそくさと名前もそのあとを追う。
「ごめんなさい、ランサー」
「いいってことよ。まあ、見えないんだろ?」
「そうみたいです。…全然気づきませんでしたし。いえ、見えない方がいいです」
「そうだな。まあ、何かありゃ俺らがなんとかしてやるよ」
「ありがとうございます…」
ふたりの背中を見送って、
ふん、と面白くなさそうに鼻を鳴らすと、ギルガメシュは外へ。
「どこへ行く?」
「つまらぬ。散歩だ」
「まあいいが。…ギルガメッシュ」
「何だ」
「ほどほどにしておけ。心霊スポットを全部潰すつもりだろう」
「…善処、は無理だな。我の可愛い名前に手を出したのだ。
塵にもなれぬよう、徹底的に排除するしかあるまい?」
「だから、ほどほどにしておけ、と言っている。
お前も珍しいな。あれがそれほど大事か」
「く、それは愚問だな綺礼、そうだなあ、…」
赤い目を細め、微笑むと。
ギルガメッシュは消えていった。
『お互い様、と言っておこうか?』
ちいさな捨て台詞を残して。
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隠せないほどに溺愛している教会組、だったり。