深淵からの光を
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名前を呼ばれた気がした。
「おい!名前!名前!!」
「…、っ!?」
はっ、と目を開けると、そこは見知った天井で。
ランサーが手を握ったまま、心配そうに見下ろしていた。
「…、わ、わたし…」
「ずいぶんうなされてたぞ、何の夢見てたんだ、オイ」
「…おぼれて、いました」
ゆっくりと、名前が上半身を起こす。
ランサーの手は、名前の手をしっかりと握ったまま。
「部屋に、椅子に座って本を読んでいたんですけど。
急に窓から水が流れ込んできて、あっというまに水で部屋がいっぱいになって…。
助けを呼びたくても、水にどんどん飲み込まれて、くるしくなって。
そうしたら、ランサーの声が、しました」
「…名前が、苦しそうに手を伸ばしてたからよ…」
「ランサーが、手を握ってくれたから、助けてもらえました」
「そりゃ良かった。…」
ランサーの視線をなんとなく追う。
壁にかけられた時計はまだまだ、夜明けすら告げそうにない時間だった。
「名前、寝直すか」
「…、はい」
「眠れそうか?」
「こわい、夢を…さっきの夢の続きを、見ないといいんだけど」
「そっか」
そのままランサーが手を離して行ってしまいそうで。
それでも、繋いだ手を離しがたくて、名前は、きゅっと手に力を込めた。
ランサーが一瞬、驚いたような表情をして名前を見た。
「ランサー…、あの」
「ん?」
それを理解したからか、ランサーも名前の手を離そうとはしない。
「また、助けてくれますよね。わたしが悪夢を見ても、
…ランサーが、助けてくれますよね…」
「おう、いの一番に駆けつけてやるよ。だから泣きそうな顔すんな」
「、はい」
「しょうがねえなあ…」
苦笑したあと、「悪夢を見ないおまじないだ」と声がして。
おでこに、やさしいキスが降ってきた。
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悪夢を見るネタも、鉄板ですよね…。