夜に溶ける空洞
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読書に没頭していた。
だから、神父がいつそばに来ていたか、なんて解らなかった。
「まだ起きていたのか、名前」
「…綺礼、」
「お前が寝ないのは珍しいな」
「あ、はい…今いいところなので、読みきってから寝てしまおうかと…」
「明日は休みか」
「そうでなければ、夜更かしはしていません」
「そうか、」
そう言うと、綺礼は何故か名前の隣へ腰掛けた。
ソファのスプリングがぎし、と鳴る。
「名前、」
「はい」
「本から目を離さなくて良い。そのまま聞いていろ」
「話を聞きながらでは本に集中できませんよ。何ですか?」
しおりを挟んで、本をテーブルに置いた。
まっすぐに綺礼を見つめる。
「…お前は、私を悲しそうな目でいつも見るのだな」
「わたし、そんな顔をしています?」
「しているよ。哀れみを込めた目だ」
「…、そう、ですか」
名前は、綺礼の左胸に手をあてる。
鼓動は、無い。
綺礼はその手を、そっと握った。
「哀れか、私が」
「…そんなことは、一度も思ったこと、無いです。
あなたはわたしの、命の恩人です。
あなたが拾ってくれなかったら、わたしは今ここに生きてはいません。
わたしの身体にある魔術回路のこと、聖杯戦争のこと、
何もかもあなたが教えてくれたことじゃないですか。
…だから、今ここにいるわたしは、綺礼が居るから存在してるんですよ」
「そうか、…そうだな」
そのまま、
名前の手を胸に当て、握ったまま。
綺礼の頭は名前の左胸へことん、と落ちた。
その鼓動を聞いているようだった。
「鼓動の音がするな。…お前は生きているな」
「わたしは生きています。鼓動はあります。
…どうしたんです?綺礼らしくもない」
「何、たまにはこういう日があってもよかろう」
「凛ちゃんや衛宮くんが聞いたら驚きますよ、それ」
「…、」
「どうしました?」
「…名前」
「はい、なんでしょう」
「もう少し、このままでいていいか」
「…ええ、どうぞ。神父のお好きなように」
それはまるで、眠れずにむずがる子供のようで。
すこし、いとおしく思えた。
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まさかの綺礼夢でした…。