カフェオレ・ブレイク
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コーヒーを淹れよう。
ふとそう思い、ランサーはキッチンへ向かった。
通り道のリビング、
その部屋にあるソファに、名前はいた。
本を読んでいた。
お気に入りの、ケルト神話の本。
ランサーには気づいていないようで。
ただじっと、名前は手元に並ぶ活字に目を走らせていた。
きっともう、そのページは何度も読んでいるのだろうに。
「………、」
ランサーは名前には声をかけず、
当初の目的を果たすことにした。
コーヒーの香り。
名前はそれに気づき、本からふと目を離した。
誰かがこのリビングを通ってキッチンへ行ったのだろう。
気づかなかった。
本に没頭していた。
自らコーヒーを淹れるのは、
名前自身を除いたら、二人。
「…飲むか?」
マグカップが、ふたつ。
ランサーが、こちらを見ていた。
「カフェオレにします」
「名前は甘めだったな」
「はい、牛乳と砂糖を多めです」
「待ってろ、」
「あ、ランサー」
本を閉じて、キッチンへ。
「わたしのカフェオレは、わたしが作りますよ」
「…読書は終わったのか」
「続きはこれからです」
ランサーと並び、
お気に入りのカップに砂糖を入れる。
「入れすぎじゃねえか?」
「ランサーの淹れるコーヒーは、濃い目ですから。
少し多いかな?くらいがちょうどいいんです」
「ふーん」
冷蔵庫から牛乳を取り出して、注ぐ。
スプーンでかき混ぜて、
一口、味見。
「…うん、おいしい」
「おいしいのか」
「ランサーには甘すぎると思います」
名前は、もう一口。
「………、名前」
名前を呼ばれて、
反射的に上げた、その先に。
ちゅ、と。
軽く音をたてて(きっと、わざとだ)、
触れた唇が、離れた。
「…甘っ」
目をやると、
名前は顔を真っ赤にしたまま、
固まっていた。
「…何て顔をしてんだよ」
「ふ、ふ、不意討ちすぎ、ます…!」
「……読書ばっかしてるからだろ」
本の中の文字の俺より、
今ここにいる俺を見てほしい。
そんな風に思いながら、
目の前にいる、名前をじっと見る。
「…ケルトの大英雄が、本に嫉妬ですか」
バレていた。
「…悪いかよ」
「あ、いえ、……その、ランサーは」
「名前、」
その先は言わせない。
とでも示すかのように。
「もっかい」
今度は両手で名前の頬を包み込んで。
深く、かみついた。
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とにかくあまくしたかったのです。