逃げられない。
――逃げられるはずがない。

コネクションを方々に持つこの男に逆らえば、きっと、春樹など簡単にこの世界から弾き出されてしまう。
役者生命を握られた。
どうすることも出来ず、与えられる口付けを受け止め、ただただ震えた。

監督は若い頃にラグビーをしていただけあって、大柄で、今もなお筋肉質な男だった。
そんな“雄”に“雌”として嬲られようとしている。なのに、屈辱と恐怖にに歪む心とは裏腹に、身体は火照りを増していく。
薬を盛られたのかも知れない。
頭と体がちぐはぐで錯乱しそうになる。

( 気持ち悪い、気持ち悪い… )

…気持ち悪い筈だった。
ぬるぬると舌が擦れあい、何度も吸われ、指先で耳まで弄られて――。…春樹の下肢は芯を持って先端を濡らしていた。
荒々しい手付きで衣服に手をかけられる。
腕や足に脱げかけの服を絡ませたまま、毒々しい色の布団へと放り投げられ、直ぐにのし掛かられた。


「舌を出して…そう… …ン…くちゅ…ちゅ、ぢゅっ、…… っはぁ…いい子だね…。キスは好き? とろけてエッチな顔してるよ…」

「…っん、んぅ…っ じゅ…ちゅぷ… っあ…んふ…っ、は、や…ぁ……っ」


どうして…監督、怖い、これ、怖いよ…。敏感に反応を返す自分の体に、春樹は戸惑ってすすり泣く。
あまりにショックが過ぎたのか、子供返りしてしまったように幼げな様子で怯え、それでも無意識に腰を揺らしている。


「ああ…たまらない…。大丈夫だよ…直ぐに何も考えられなくなる…、気持ち良いことたくさんしてあげるからね…」


もどかしげに乱れたシャツを割り開かれ、ばつん、とボタンが取れて飛んでいく。
お互いの唾液でたっぷりと濡れた舌で、春樹の小さな乳首を撫でた。
乳輪をぐるりとなぞり、慎ましやかな粒を舌先で押しつぶし、わざと酷い音を立ててジュパッと吸う。
性感体でなかったはずのその場所が、執拗に弄り回されて甘く痺れていった。
もう一方の乳首にしゃぶり付きながら、ピンと立った唾液まみれの乳首を指でころがす。
ビリビリと痺れる身体。

( ――あたま、おかしくなる…! )


「んぅ…ん…っ、は…ぁ…っ、うそ…うそ…っ、や、あー…っ」


女じゃないのに乳首が気持ち良い。思わず胸元にある男の髪に指を絡めていた。
追い立てられる熱に、腰が揺れている。乳首を舐められながら、男の腹に濡れた股間を擦り付けてしまっている。
あまりに淫らな自分の醜態に、春樹はひぅ、ひぅ、と泣きじゃくった。


「気持ち良くて泣いちゃうなんて、可愛いね…。すごく興奮する…」


太腿に引っかかっていたズボンを下着ごと毟り取り、しなやかなその両足を大きく割り開く。
まるでひっくり返ったカエルのような姿に、悲鳴を上げて春樹は顔を覆った。
男の目の前に曝されたペニスが、ふるりと勃ち上がっているのが自分でも分かる。男としての尊厳がほろほろと崩れていき、剥き出しにされていく歪な性欲。

( 壊れる…! 俺、このまま、壊されて、おかしくされる…っ!! )

肌を辿る手のひらは、厚く、大きく、がっしりとした男のものなのに。
敏感になってしまっている身体はまるで見境がない。快感として全て受け止めてしまう。


「あ…やぁ…っ、ひっ、ん、あ、あ…っ」


男は春樹の柔らかな内腿に吸い付き、いやらしい跡をいくつも刻みつけた。
完全に勃ち上がって震えているペニスが、だらだらとカウパーを垂らすのを、ねっとり眺めて楽しんでいるようだった。
刺激が欲しい。
ちゃんとした刺激が。
何かを考える前に、腕で顔を覆ったまま、春樹は腰を揺らしていた。


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