ろくに喉を通らなかった夕ご飯。
お風呂で念入りに洗った体。
気持ちを落ち着かせたくて、寝室にアロマを焚いてみたり、舐める程度にアルコールを摂ってみたが、かえって興奮に拍車をかけた。
手持ち無沙汰でつけたテレビは耳を素通りする。

長く長く感じた時間。

約束の5分前、姫子はアプリにログインした。
男からメールが届いており、ツーショットチャットの部屋番号とパスワードが添えられていた。
ドキドキと心臓が忙しく跳ねる。
緊張で乾いた唇を舐めて、姫子はチャットルームへと進んだ。

(これから私、どうなるんだろう…)

――…どうされちゃうんだろう。
姫子の下半身が、キュゥッ、と。
甘く疼いた気がした。


□ ■ □ ■ □


“なおと”という名前は、前もって言われていた通り、“ご主人様”になっていた。
その文字列を見ただけなのに、さざ波のように背中を痺れが駆け抜けていった。
興奮したのだ。
今から彼は自分を調教する主人なのだと、そうはっきりと心身が認識した。


〔ご主人様〕
『今、どんな格好をしている?
パジャマかな、スウェットかな』

〔つばき〕
『パジャマワンピースを着ています』

〔ご主人様〕
『良いね、かわいいよ』


調教へのステップとして、今夜はオナニー指示に従う事になる。
まるでAV導入部のようなやり取りから始められた。


お風呂にはもう入ったのかな。
 ――はい、はいりました。

ベッドに座ろうか。
 ――はい。

髪の長さはどのくらい?
 ――セミロングです。

おっぱいのサイズは?
 ――…小さくて…、Bです。

どんな下着をしているか教えて。
 ――普通の…花柄の刺繍が入った、水色の、上下でお揃いのやつです。

可愛いね、素直で良い子だ。
 ――恥ずかしいです…。

良い子なら俺の言う通りに出来るよね?
 ――…はい…。


〔ご主人様〕
『掌で自分の頬を包んで…、そのままゆっくりと下ろしていこうか』
『指先を耳朶にかすめるようにして…ゆっくり…首筋をなぞっていって…』
『触れるか触れないかの優しいタッチで鎖骨を撫でて…』


焦らされるように送られてくる文字を追って、姫子は指を自分の体へと滑らせた。
それだけなのに、あっけなく簡単に呼吸が上擦る。
体が熱い。吐く息が熱い。


〔ご主人様〕
『パジャマの上から、優しくおっぱいに触れてごらん。』
『乱暴にしちゃダメだよ。
可愛いおっぱいはご主人様のものなんだから、丁寧に扱うんだ。』
『良い子のお返事、出来るね?』

〔つばき〕
『はい…、優しくします。』

〔ご主人様〕
『お前のおっぱいは誰のもの?』

〔つばき〕
『私のおっぱいは、ご主人様のものです…。』


誰かの所有物として扱われることに感じたのは、反発でも嫌悪でもなく、興奮だった。
こんな、マゾのような自分がいるなんて知らなかった。
まるで催眠術に掛かったみたいだ。
正気を少しずつ失う。理性を自らほどいて手放す。
頭がふわふわとしており、姫子は言われるまま行動した。

パジャマの釦を1つずつ焦らすように外し、肩から滑り落として素肌をさらけ出す。
良い子だと褒められる。
従順に反応するたびに、“ご主人様”に褒められ、姫子は喜びを感じていた。
命令されるままブラジャーのカップを押し上げて、小振りな胸を露出する。
期待にいやらしく突き出た乳首が、今か今かと刺激を欲しがっていた。


〔ご主人様〕
『人差し指を少しだけ口に入れて…。歯は触れないようにして…。』
『舌でゆっくり指先を撫でて…。
今度は唇で挟むようにして、優しく咥えてごらん。』
『指を出し入れしてみようか。
ゆっくり…ゆっくり…。』


ちゅ…ちゅぷっ、…ちゅぷっ、


〔ご主人様〕
『そう…上手だね…。
少し強めに吸い付いてみて…。』


ヂュル…ッ、


「…んっ…んふ…、んっ、んっ」


メッセージの通りに人差し指を愛撫するように舐めるさまは、まるで他人のソレを慰撫しているかのような錯覚に陥った。


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