寺から帰宅した姫子は、自宅にある夫の遺影の前でひとしきり泣いた。
悔しくて、悲しくて、おぞましさが身を襲い、何も考えられずに顔を伏せて泣いた。

(ごめんね、ごめんなさい××さん)

夕暮れに紛れて姫子はよろよろと歩く。
昼間に訪れた寺は、夕闇に染まって、まるで不気味な姿をしていた。
…姫子の錯覚かも知れない。
夜が迫ってくる黄昏に、頭から飲み込まれてしまうような気分だった。

墓地や本堂から随分と離れた場所に、竹垣で囲われた小さな日本家屋がある。
乱立する樹木に隠れるようにポツンと建つ木造の平屋は、先代住職が設けた茶室らしい。
…今はそんな侘寂とは遠い使われ方をされてしまっている。

一年前、ここで姫子は夫を裏切った。
一年前、ここで姫子は身を売った。


「――…?」


躙り口へと近付いた時、茶室の中から啜り泣くような声が聞こえてくることに気がついた。
ギクリと体が強張る。
気怠げな女の濡れた声だった。
色ぼけたあの生臭坊主は、姫子を待ちながら、女とセックスに耽っているのだ。

『…ゃ…っ… …ぅ… い…ぃや…ッ』

女は嫌がっているようだった。
だが泣き声は既に快楽に染まっている。
嬲られる力から逃れることは出来ない。
心を置き去りに体を手込めにされ、やがて何もかもが真っ白になる。

――そうなる過程を姫子は知っている。


「……っ」


信じられない気持ちを抱きながら、姫子は聞こえてくる音に耳をそばだてていた。
耳を塞ぐこともせずに吐息を堪え、住職と女のセックスに聞き入った。

(…そう、そうだった… 住職はこういう男だった…)

男のセックスを覚えている。
優しかったのはこの茶室に訪れる瞬間までで、二人っきりになった途端、女を食い荒らすケダモノの本性をあらわにした。
ハッと正気付いても遅い。
力任せに姫子の体を開き、陵辱のかぎりを尽くした。
何度も…何度も…。
……何度もイかされて…。
淫らな快楽に悶えて、ついには目の前の男に溺れても、許しを乞うても嬲られ続けた。

(…っ…だめ、こんな…、こんなこと考えちゃ…ッ)

上擦った呼吸は熱く湿っている。
喪服の内側が火照り出す。
姫子は自分で自分を抱き締めて、セックスが終わるのを必死に願った。

…どれほど時間が過ぎただろう。

女の極まった悲鳴が聞こえた。
それに続くように肌が激しく打ち付けられ、雄じみた声が上がった。
しん…と静まる。
すすり泣く女が何事かまくし立て、男の声が下品に笑い、また女は泣き崩れた。
慌ただしい衣擦れの音。
早々に逃げ去りたいらしい女が、躙り口の戸を開けて出て来ようとしている。
姫子はとっさに袖垣へ隠れた。
現れたのはワンピースの喪服を着た若い女だった。
黒いストッキングはあちこち伝線しているし、乱れた髪は汗ばんだ項に張り付いている。

まるで一年前の自分の後ろ姿を見ているようだった。

姫子は堪えるように唇を噛んだ。
それでも躙り口をくぐれば、むわっ、とセックスの匂いに襲われた。
ほのかに照らす行灯ひとつと、着乱れた法衣を纏う罰当たりな住職。
四畳半の部屋に籠もった熱気と、生々しいレイプの残り香。
畳に散る丸められたティッシュに…口の縛られた避妊具が投げ捨てられていた。
未使用のスキンが乱雑に放り出されている。


「こ、今回かぎりで最後にしてください」

「…姫子さん、さあ、こっちに来て」


絞り出すように懇願した言葉は聞き流され、姫子は腕を引かれて住職に抱きすくめられた。


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