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「#甘々」のBL小説を読む
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―――時が止まった気がした。
この電話の相手は本当にあの月島なのだろうか。
ドッキリか、もしくは何か他の…罰ゲームかもしれない。
取り乱した私は落ち着きなく今度は肘をついてうつ伏せになった。

「…え、ええっと…?」
「なんて言ってはみたけど、現実問題僕達はまだ学生で遠距離恋愛なんてする時間もお金もないよね。余裕のない付き合いは無駄な口論や葛藤を生むリスクがある」
「う、うん…?」
「だから、取り置きで。返事も今は要らない。また連絡するから。おやすみ」

それだけ言うと彼は一方的に電話を切ってしまった。
そして呆然とする私を差し置いて時間は流れ、翌日予定通りに行われた引っ越しで私は東京へと旅立ったのだった。
それまで客観的にカッコいいと言う程度の認識でしかなかった彼を強く意識するようになってしまったのはその日からだ。
宙ぶらりんな私の気持ちは今も続いていた。
上京して暫く経っても月島からの連絡は無く、あの日の事は夢だったのではないかとすら思う日もあった。
それでも、月島とのLINEのトーク画面の最後の履歴には「話したいことがあるんだけど」の一文が存在していた。

次に連絡が来たのは一年後だった。
進級の報告や山口に誘われてまたバレーをしていること、そのチームでの試合の結果など一気に纏めて事後報告をされ、無駄の無い簡潔な文章に相変わらずだと苦笑したのを覚えている。
一年前の事が頭を過り心の中にモヤモヤとしたものを感じつつ、私も差し障りの無い返信で記憶に薄い他愛のない話をした。
ただ、そんな中「まさかその頭と顔で彼氏なんか出来たりしてないよね?」と言う強烈な一文だけは明確に覚えている。
悔しいが、勿論答えはイエスだ。
それが既読になると会話は終了した。
今思い出しても本当に失礼な奴だと思う。

こんなやり取りが毎年続き、大学卒業の報告と同時に某一流企業への就職で上京することを告げられた。
これからもこんなローペースに近況報告をする謎の関係を続けるのだろうかと、半ばこうなった経緯を忘れかけていたそんな今朝、突如送られて来た言葉に私は固まった。

(―――今日、引き取りに行くから)

四年前の出来事がフラッシュバックする。
その言葉の意図を察した私はその返信をしないまま、今まさにその彼のいる集合場所へ向かおうとしていた。
こんなギリギリになって焦る自分に嫌気が差す。

集合場所である店内に入ると早くも酔っ払い達の談笑で賑わっており、少し大きめな声で話す店員に案内され烏野黄金時代の面子が集まる個室へと向かう。
早まる心臓を誤魔化すように洋服の胸元を握り締めながら歩み進め、一番奥にある広めの個室の前まで来ると案内を終えた店員が軽く会釈をしてフロントへと戻って行くのを見届けるや私の心情など露知らず潔子先輩が何の躊躇もなく襖を開ける。
咄嗟に私は潔子先輩の後ろに身を隠すようにして小さくなった。

「お、やっと来たか!」
「久し振りだなー!」
「遅ぇから先始めてたぞ」
「早く座れよー」

懐かしい声に催促され、潔子先輩は無言で小さく頷くと靴を脱いだ。
私も慌てて靴を脱ぎながら盗み見るように面子を確認する。
――月島は…まだ来ていないようだ。

見た感じまだ半分程しか席は埋まっておらず、既に来ていた面子は潔子先輩を含め未だ県内在住らしい。

「お久し振りです」

小さく頭を下げながら私は誰も気にしていない感じではあったが一応下座に腰を下ろした。

「名前は上京組だったよな、遠いところからわざわざご苦労様!」
「こら日向、ご苦労様は上の立場の人間が使う言葉だぞ。そこはお疲れ様だろう。名前、今日はありがとうな」
「えっ、そーなの?ですか!」
「ボゲ日向…」

主将の変わらぬ貫禄に、そして昔と変わらぬ空気に安堵しつつ自然と笑みが溢れる。
既に出来上がりかけている県内組の追加注文に便乗してビールを注文するとそれが運ばれて来るや改めて皆で乾杯した。

一杯目を飲み切るより先にこっそりソフトドリンクを頼んだ私は押し退けるようにビールのグラスを遠ざけつつ雑多に並んだ纏まりの無いつまみを口にしながら皆の話を聞いていた。
お酒は苦手だ。
すぐ顔が赤くなるし頭も痛くなる。
幸いここには無理矢理飲ませるようなパワハラ上司もサークルノリな子供もいない。
心地好い空間に身を委ね、後からぽつぽつと訪れるメンバーでほぼ席が埋まった頃合い、当初の集合時間を迎えた。
日向と影山の関係は相変わらずで、田中先輩と西谷先輩の潔子先輩への愛もまた相変わらずだった。
時間は経てど変わらぬ関係性に何処かホッとする。
そんな完全に傍観者になり下がった私を気遣ってか菅原先輩と澤村先輩が様子を伺うように話を振って来た。

「それにしても名前は綺麗になったよな」
「昔からスタイルも良かったし更に磨きが掛かったんじゃないか?」
「えっ!あの、ええっと…気を遣わせるようなことを言わせてしまってすみません!アリガトウゴザイマス…!」

誉められ慣れていない私は対応に困り首がもげんばかりに顔を左右に振り乱す。
似た人種の谷っちゃんの席も遠く、助けてくれる人もいない。
普段は平静を装った対応をするが、どうもこの手の話題には滅法弱いのだ。
肩に力が入り取り敢えず落ち着こうとグラスに手を伸ばし一気に喉に流し込む。
すると途端苦い味が口内に広がり思わずグラスを傾けたま口を閉じてしまった。

「「「あ…」」」

取り違えたグラスの中身はビールで、しかも閉じられた口の横を伝って洋服へとシミを作って行く。

「まあそんな焦らずに!ほら、おしぼり」
「ティッシュ!ティッシュもあるぞ!」
「お、どうした?俺のおしぼりも使え!」

フォローしれてくれる先輩達の優しさと羞恥心とで涙が出そうだ。
よりにもよってそんな一番カッコ悪い状況の時に…

「どうも」

―――懐かしい声がした。

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