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人は年を重ねる毎に自分の人生と言うキャパが広がり続け、その中での一年の長さはどんどん小さなものとなる。
故に若い頃の時間の流れは早く感じるとは言うけれど、本当にその通りだと改めて思った。


現実的な愛を君に


「名前!」

仙台駅に着くや突如後ろから声を掛けられ、振り返るとそこには見知った黒髪の女性が立っていた。
いつもより張られた声に驚きはしたものの、彼女は相変わらず凛としていて美しい。

「潔子先輩」

最後に会った時より少し長くなっていた彼女の綺麗な髪が風に靡くとつられるようにして自分の髪も乱れるのを感じ慌てて手櫛で整える。

「久し振りだね。私も今着いたところなんだ。一緒に行こう」

昔より柔らかく微笑む彼女に自然と微笑み返しながら隣に並ぶとそのまま西口へ。
都内より大分強い風が吹き付けるペデストリアンデッキを二人歩いて行く。

「私、仙台に来たの久し振りで…随分変わりましたね。さっき東口の方に新しい建物が出来ててビックリしました。それと映画館も!」
「そうなの。熱りが冷めたとは言え、まだまだ人がいっぱいだよ」

烏野高校を卒業してから早四年。
私が青春を共にした烏野高校排球部のメンバーはそれぞれ別の道へと進んでいた。
進学する者、就職する者、上京する者…本当に皆バラバラだった。
私は進学上京組だったのだが、気付けば身分はもう社会人になっていて、すれ違う制服姿の学生達に何処か懐かしさを覚える。

「東京はどう?慣れた?」
「それなりですかね。寄せ集めの町だから地方の人も多いですし、就職先も人間関係に恵まれてて思ったよりは上手くやれてるかなと思います」

駅前からアーケードに入り人を避けるようにして道の端を歩く。
待ち合わせの居酒屋は次の信号を渡ってすぐのところだ。

「そっか。でも名前が変わってなくて安心した。そう言えば月島も上京したらしいね。連絡は取ってるの?」
「全然ですよ。向こうも忙しいみたいですし…」

笑いながら言葉を濁す私は平静を装えているだろうか。

**********

(―――話したいことがあるんだけど)

上京する前日に来たLINE。
月島からだった。
引っ越しの最終確認に忙しかった私がそれに気付いたのは深夜一時。
今更どう返せばいいものかと悩んでいると突然着信音が鳴り、つい反射的に通話ボタンを押す。

「は、はい…」

変に上擦った声で応じると電話の向こう側からはいつもと変わらぬテンションの低い声。

「夜分に悪いね。今大丈夫?」
「う、うん」

またも変な声が出た。
携帯から口を少し離してこっそり深呼吸をすると言葉を続ける。

「ごめん、LINE今気付いた。明日引っ越しでちょっとばたばたしてて…」
「知ってる」

なら何故今掛けて来た。
喉から出掛かったその言葉を飲み込む。

「本当は言わないでおこうと思ったんだけど、やっぱりすっきりしないから伝えておこうかと思って」
「ごめん、話の脈絡が…。引っ越し蕎麦は食べたかとかそう言う話?」
「……」

違うとわかってはいたもののつい間を持たせようと変なことを言ってしまい思いきり引かれてしまった。
しかし月島とは今まで部活の時でこそ話したことはあるものの、電話でましてや二人きりでなんて話したことはなくどうしたらいいかわからないのだ。

「そう言うボケは求めてないんだけど」
「スミマセンデシタ…」
「……」

自分から掛けて来た癖にその後また沈黙が訪れ、気まず過ぎて月島には見えてもいないのに身振り手振りが加わる自分に苦笑しつつ言葉を紡ぐ。

「ど、どうせ私は最後まで抜け作ですよっ。悪かったわね!」

自棄になり吐き捨てた言葉に対し電話の向こう側で「抜け作って…」とまたも呆れたような声が聞こえた気がしたが、敢えてそれには突っ込まず近くに転がっていたガムテープに手を伸ばすと片手間に最後の段ボールに封をする。
ああ、もう私はこの町からいなくなるのだ。

「…最後にするつもりはないんだけど」

ボソッと聞こえた言葉に眉根を寄せ携帯を持ち直す。

「え?何?」
「だから、最後にするつもりはないんだけど」
「ごめん、よくわからない」
「馬鹿なの?」

このお決まりの皮肉ももう聞くことはないのだろうか。
そう思うと不思議と怒りも沸いては来なかった。

「その嫌味ですらもう聞けなくなるのが少し寂しい気がするよ」
「人の話聞いてる?」
「聞いてるよ」
「じゃあ理解して」
「?」

最後の段ボールを部屋の端に足で追いやり唯一残されている薄っぺらい布団の中の収まると私は厚めの靴下に包んだ足先を擦り合わせた。

「だったらわかるように説明してよ」

煮え切らない言葉に少し強めに返し天井を仰いで軽く目を閉じる。
すると一拍置いてから思いもよらぬ言葉が降って来た。


「僕と付き合って欲しいんだけど」

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