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「すみません、急な仕事で思ったより時間が掛かってしまって…」
「おー月島、よく来たな」
「社長出勤ですかコラ。エリート様ですかコラ」
「何で影山田中さん口調なんだよ」
「酔っ払いってやだねー」

そこには当初あんなに気にかけていたのに最早忘れかけていた人物が。
昔と変わらぬスラリと細長いシルエット。
そんなスーツ姿の彼を反射的に見てしまったことに後悔しつつも咄嗟に目を逸らす。

「……、あの、私ちょっとお手洗いに行って来ます」

避けるようにして月島の横をすり抜ける。
そしてお店のサンダルを履くと小走りで化粧室へと駆け込んだ。

「な、なんてタイミングの悪い男…」

洗面台に凭れるようにして呟くと一度深呼吸をして気を取り直し、服の裾を何度もキツく絞る。
薄手の生地が透けてシワシワになってしまった。
申し訳ないと思いながらも個室からトイレットペーパーを拝借し、重ねてちぎったもので服に染みた液体を吸い取って行く。

横に並んだのはすれ違った一瞬だったけれど、また背が伸びていたように思う。
少し髪型も長めになっていたような気がした。
でも、微かに香った匂いは昔と同じだった。

色々と気になるのに改めて確認するのが怖い。
ここへ逃げ込んでどのくらい経っただろうか。
粗方水分も取れたところで皺を伸ばすように生地を伸ばすとハンドドライヤーで少し湿り気がある程度までには仕上げることができた。
あまり長いこと席を外すのも悪いと思い、意を決して化粧室から出ようと扉を開ける。
すると―――

「お腹でも壊してるの?」

そこまでの意は決していない!と思わず自分の中で突っ込みを入れてしまった。
化粧室前の廊下にいたのだ、あの月島が。
私はあの個室に戻る際、襖の前で改めて気合いを入れてから対面するつもりだった。
なのにまさかこんなところで…
あからさまに目を泳がせながら一歩下がり、あわよくばもう一度化粧室へ戻ろうかと考えが及んだところで、それを見抜いていたと言わんばかりに距離を詰められ腕を掴まれる。

「なにしてるの」
「いや、ちょっと忘れ物…」
「何も持って行ってないデショ」

あの一瞬でよく見ていたものだ。
思わず感心してしまう。

「ねぇ」
「何デショウカ?」

相変わらず私の目は泳いだままだ。

「この状態だと僕が犯罪者っぽくなるから取り敢えずこっち出て来てくれない?」

確かに…と、言われるがまま足を進め化粧室から距離を取り廊下に出る。
腕は未だ掴まれたまま、少し痛みを伴った。

「ヒッ、ヒーローは遅れて登場なんだね!皆待ってたみたいだし早く席戻った方がいいよ!」
「言われなくてももう用は済んだから戻るよ。それに、そっちの方が早く戻った方がいいと思うけど」

尤もな意見を返され渋々引っ張られるような状態であの個室へと向かう。
襖の向こう側からは楽しそうな笑い声が響いていた。

「ほら」

今まで隠れるように月島の後ろを歩いていたのに部屋の前に着くなりいきなり背中を叩かれ先に行けと視線で指示される。
逆らう意味もないので言われるがまま先に入ると元の位置に座った。

「大丈夫だったか?」
「あ、はい。何とか乾きました」

ほんのり頬の赤い菅原さんが心配そうに覗き込んで来る。
そんなやり取りに視線を感じて前を見ると月島が着席していた。
さっきまで澤村先輩がいた席なのに何故。
そう思って周りを見回すと最早最初の席順は関係なしに皆好き放題やっていた。

「僕が向かいにいると不満なわけ?」

眉間に皺を寄せ不機嫌そうに問われ「別に…」とぎこちなく返してはみたものの、完全に気まずい。
酒の入った人達は楽しくわいわいあちらこちらへと話に割り入っては楽しんでいた。
なのに私達のこの空気と言ったらなんなのだろうか。
どうにも耐え切れず、私は慣れない酒を注文して飲むことにした。

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