世界の真実

困惑する少女に、とりあえず“人間の”範疇に括られる犯罪者ではないことをカムシンが付け加える。少女が信じるかは別として、だ。
「わたしたちは仕事を最小限で早く終わらせたいだけなんです」
「仕事……?」
少女の視線が、一瞬シャンディアのイヤリング……神器“ジェノヴァ”に向けられる。
「ああ、そうです」
「とにかく一刻を争うの。無理にとはもちろん言わないけど、協力してくれるとすごく助かるの」
カムシンとシャンディアの、どう見てもふざけているとは思えないその言葉に、少女は迷っているようだった。
「ふむ、今日は準備、付き合ってもらうのは明日いっぱいで明後日に仕上げ、というのが理想的なんじゃが」
あくまで、少し力を借りるだけだということを強調するベヘモット。カムシンは少女の様子を見て、少し考えてからまた口を開いた。
「ああ、とりあえず、もう少し話を聞いてみてください」
「…………な、なに?」
とうとう少女が話を聞く姿勢を見せた。本格的に関わるわけではなく、話を聞くだけならいいと判断したのだろう。シャンディアたちにとってはまず、第一関門の突破といったところだ。
「ああ、簡単に言えば、歪んだところを直す、というものです」
「危険は一切ないし、お嬢さんは私たちと一緒に街を歩いて、おかしいと思ったところを教えてくれるだけでいいよ」
「無自覚でしょうけれど、わたしたちの同志に関わったものとして引き受けてくれないかしら?」
少女はひどく悩んでいた。カムシンとシャンディアに恐怖のようなものを感じながらも、同時に強い魅力も感じていたのだ。悩み、八方塞がりな状況を打破してくれる、乗り越えさせてくれる、そんな希望を抱いていた。
「じゃ、じゃあ……少しくらい、なら」
それが、少女に絶望をもたらすことになるとは知らずに、少女……吉田一美……は、ついに首を縦にふった。

翌日の夕方……にはまだ早い時間、吉田一美がカムシンとシャンディアとの待ち合わせ場所に現れた。やはり、互いに昨日と同じ恰好をしているためすぐに見つけられた。
(ミステス……だよね、やっぱり?)
「この世には、そこに在るための根元の力、“存在の力”というものがあります」
説明はカムシンに一任して、シャンディアは昨日からずっと気になっていた気配について考える。
「この街に、その“存在の力”を奪う、人喰いが潜入しました」
(そう、“紅世の徒”が……。そしてミステスを発見した?)
「いや、心配せずともよいのです。もう私たちの同志がやっつけました」
(フレイムヘイズ……この気配のどちらか、あるいは双方が。……もしかして、このミステスも関係があるの?)
「人喰いは、自分が人を喰ったのを気付かれないよう、細工をしていました。トーチという仕掛けです。喰われた人間に偽装する“存在の力”の残り滓」
(やがてトーチは“存在の力”を失っていき、最初からいなかったことになる。それは、ミステスでも同じ)
「我々の同志は、そういう人喰いをやっつけています。私たちの仕事は、その後始末」
(“存在の力”が消失したことによる不自然な歪み……)
「災いが起こる可能性のあるその歪みを修正し、調整するために世界を巡り歩いているのです」
意識の外から、カムシンの声、そして相槌をうちなから確実に本質を理解し始めている吉田の声がシャンディアの耳に飛び込む。
(ミステスとフレイムヘイズ……なんの関係がある。この街のフレイムヘイズは何を考えてるの?)
「ああ、百聞は一見にしかず、と言うでしょう」
カムシンが古い造りの片眼鏡の宝具『ジェタトゥーラ』を吉田に手渡した。シャンディアは意識を吉田に向け、世界の真実を見た彼女がどう反応をとるか、静かに見守る。
「……!?」
『ジェタトゥーラ』を覗いた吉田は、小さく息をのんで瞠目した。

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