歪みの都市

「ああ、これは……どうやら、想像していたよりも酷いようですね」
シャンディアの構築した自在法『エルサレムの足跡』を通って、カムシンとシャンディアはあれから数日後、目的地である御崎市に到着した。
夏だというのに長袖長ズボンを着込んで、巨大な棒の宝具『メケスト』を担ぐカムシン、同じく長袖長ズボン、それもよく目立つ赤色をしたシャンディアはただの人間から見れば変わった少年少女だった。しかし当の二人は気にした様子もない。
「……一つの街に、フレイムヘイズが二人?」
大きな存在の力、即ち徒かフレイムヘイズのものを二つ感じ取ってシャンディアが驚く。存在の力を感知することに長けているシャンディアは、人間に紛れている徒や燐子を発見することができるだけでなく、フレイムヘイズと徒も感じ分けられる。
「これが原因なのか、それとも結果なのか……」
「ああ、後で仕事の合間に挨拶に行くとしましょう」
それよりも、とカムシンがフードの下から視線をめぐらせる。
探しているのは、調律の際元の街をイメージし歪みに気付くことができる“人間”の協力者だった。ただし、必要最低限の知識は与えなければならないので、それが理解できない馬鹿や逆に真面目すぎる人間はよくない。
「……ああ」
カムシンが顔を上げた。その先には、白い夏服のセーラーを着た少女がいる。気の弱そうな少女で、何か考え事をしている。そして何より、その少女からは大きな力の気配が感じられた。おそらくはこの街に潜伏しているフレイムヘイズと、何らかの形で接触したことがある……それもごく最近……と、カムシンは察した。
御崎市は本来ならあり得てはならないはずの、人間とフレイムヘイズの接触が多いのか、シャンディアは御崎市に入ってから既にいくつか人間からフレイムヘイズの気配を感じていた。
(それよりもこの“紅世の力”……まさか、ミステス?)
考え事をしているシャンディアに、カムシンが確認の声をかける。
「『罪科の秤り手』、良いですか?」
「え?」
「ああ、協力者かもしれませんから」
「あ、うん。そう、だね」
珍しくぼうっとしていたシャンディアを見て、カムシンは少し首を傾げた。
そしてはた、と少女がカムシンたちの方を見た。恐れと、不安と、憧れのこもった瞳が、奇妙な恰好をしたシャンディアとカムシンを捉える。
「あなたは、知っているのですか?」
カムシンが少女に問いかけた。シャンディアとカムシンはじっと少女を見つめ、反応を待っているが、その少女は困惑した表情を浮かべている。
「ああ、協力者かと思ったのですが……」
「ふうむ、偽装して定住する者の側におるが故じゃろう」
「隠しきれてないもんね」
少女から見たら、二人は誰と……つまり姿の見えないベヘモットとはどのように話しているかと奇妙に思えるだろう。
「あ、あの、あなたたち、迷子になっちゃったの?お父さんとお母さん、一緒に探そうか?」
中学生に見えるかどうかのシャンディアと、明らかに十歳に満たない“外見”のカムシンに対し、少女はそう言った。いつもと同じ、よくあるパターンだ。
「ああ、すいません」
カムシンが苦笑しながら返す。年相応ではない反応に、少女が困惑の色を深めたのがわかる。
「お嬢さんはこの街に住んで何年になる?」
「え?生まれた時から、だけど……」
少女はシャンディアの問いに、戸惑いながらも答えた。
「ああ、それはいい。人選を誤ってはいなかったようです」
「そうね、結果オーライというのかしら」
ルファナティカまでが会話に参加し、少女はすっかり何が起きているのか理解できない。そんな少女を見て、カムシンが僅かに腰を折った。
「ああ、申し遅れました。私は『偽装の駆り手』カムシン……カムシンで構いません」
「ふうむ。儂は“不抜の尖嶺”ベヘモットじゃ」
「あ、私は『罪科の秤り手』シャンディア。シャンディアでいいよ」
「わたしは“天壌の早瀬”ルファナティカです」
二人にして四人の自己紹介に、少女はますます困惑した。

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