神託の衝撃

楽園『無何有鏡』がまさに生まれんとしている。
シャナたちが挑んだ、おおもとである『大命詩篇』の改変が間に合ったのか、それとも戦いは未だ決していないのか、シャンディアたちにはわからなかった。
ただ、世界に響く創造神の声を聞いていた。
「――“祭基礼創”――」
吉と出るか凶と出るか。
――その瞬間、創造神が、フレイムヘイズが、徒が、王が、ある声の気配を感じていた。
《――    ――》
創造神の神威召還と併せて起こった、もう一つの神威召還。それは誰一人予想しなかった、“彩瓢”フィレスと『零時迷子』ヨーハン以上に不測の事態。
「嘘……“覚の嘯吟”……」
それは、『天罰神』と、『天釈神』と、『創造神』と並ぶ、紅世の神の言葉だった。
導きの神“覚の嘯吟”シャヘル。世界中に在る、徒やフレイムヘイズたちへ強制的に聞かせる『喚起』と『伝播』を司るもの。
《――偉大  こと  行われて  いる――》
遠くから途切れ途切れに響いてくる声は、けれど一言一言が耳から脳へ入り込み、意識を支配する。
《――其  偉大なれど  護りなくば  儚く失せる  新たな灯――》
“祭礼の蛇”の神威召還は、結果的に中断されていることになる。それでも導きの神託を止められないのは、神そのものの性質ゆえ。
《――其  実現すれど  知らずれば  埋もれ行く  新たな灯――》
聞きながら、神託の意を汲もうと、シャンディアは頭を回転させる。
望んでいた、シャナたちの為そうとしている『大命詩篇』の改変についての神託ではないことは明らかだ。
《――よって  導きの神“覚の嘯吟”  名において  これ  伝える――》
(新たな、灯……そうか!)
徒とフレイムヘイズが衝突しているこの状況下で起きたイレギュラーといえば、シャンディアが知る限り一つしかなかった。
《――為したる  『約束の二人』  研鑽  互いの  結節  結晶――》
フィレスとヨーハンを指す『約束の二人』という言葉に、確信を得る。
《――新た  形を得て  見出せ  新た  己  在り様――》
この瞬間に、一美が抱いていたフラスコは絶対に守らなければならないと理解する。
《――新た  希望持て  旅立て  新た  地  旅立て――》
神託は、聞く者の記憶に刻み付けられ、決して忘れることはない。
《――己が身を  投じ  生み出される  『両界の嗣子』  と共に――》
(『両界の嗣子』!?)
『約束の二人』に関する神託であると予想していたシャンディアも、実際の内容を聞いて驚愕する。
シャンディアだけではなく、先代『炎髪灼眼の討ち手』らが戦った先の大戦を見聞きしているものなら、誰もが聞き覚えのある言葉であり、同時にシャンディア同様驚くべき言葉であった。
『両界の嗣子』。
それは、紅世とこの世の存在の融合体。先の大戦では、強大な“紅世の王”が自らの契約者との間に子を成そうとした狂気の沙汰といえる出来事だった。
《――求め  よ  新た  在り様――》
告げるべきことを告げると、声の存在感は唐突に消え失せる。
ただ、記憶にその衝撃を残して。

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