助人の参上

(桜、色……?)
シャンディアたちがそれに気が付いた時、徒たちが、まるで示し合わせたかのようにバタバタと倒れていった。その被害は外へ広がる一方。
「おお!」
上を振り仰いだゼミナに釣られて目線を追った一美は、無数のリボンをなびかせて戦場に舞い降りる一人のフレイムヘイズの姿を見つけた。
「助っ人参上、であります」
「後事一任」
シャナとともに戦っていたはずの『万条の仕手』ヴィルヘルミナ・カルメルだった。
「……それは?」
一美の無事を見て確認すると、一美が抱えている琥珀色の輝きを放つフラスコを見て疑問を呈す。彼女が求めてこの場へやってきたフィレスとヨーハンが見当たらないことへの疑問でもある。
「フィレスさんと、ヨーハンさんです」
しっかりと掲げてヴィルヘルミナに見せながら一美が言う。
さらに怪訝そうに問いを重ねようとしたヴィルヘルミナに、彼女の契約者であるティアマトーが言葉をかぶせる。
「言談後刻」
ヴィルヘルミナがある程度片付けた徒だったが、すぐに新しい群れがやってくる。際限なく、世界中から徒が集まって押し寄せているのだ。
「ヴィルヘルミナはこっちを手伝って!」
遠くにいるうちに殲滅しようとするシャンディアに声をかけられて、ヴィルヘルミナは顔を上げる。
「とりあえず、俺たちはこの扉の中に逃げ込むつもりなんだが」
徒に気付かれて一度出入り口を閉めた『真宰社』の壁の一部を見るギュウキに、ヴィルヘルミナは頷く。そして幾条ものリボンを伸ばしながらシャンディアの隣に立った。
「了解。現状、逃げることが叶わない、というのなら、あと十分ほど、なんとか凌いでみせるのであります」
「で、中の様子は?」
『百鬼夜行』の連中が頼りにならないわけではないが、フレイムヘイズがひとりくらいはついて行くべきか、という確認をこめてシャンディアが訊ねると、ゼミナがそれを拒み、中の事柄を請け負う。
「警戒は私がする。危なくなったら報せよう」
言外に徒の相手を頼むゼミナに苦笑しつつ、露草色と桜色の火の粉が戦場を覆う。一行は再び逃げ込む。
「あっ!」
パラの驚く声にシャンディアが振り返ると、塔の中に飲み込まれていた一行が奇妙な形をしたチューブ状の通路に消えていくところだった。
「『高く聳える巌となれ』」
「『すべて遮る濠となれ』」
その出入り口を自在法で封じ、引き続き襲い掛かってくる徒をあしらう。
「なるほど、『儀装の駆り手』が苦しんでいるのも道理であります」
「個我摩滅」
シャンディアのそばにカムシンがいない――というよりは、ここではない場所に巨人がいたことを知っているため、そんな感想ももれる。シャンディア自身、カムシンが向かい合っている状況と同じことにその言葉で気が付き、眉尻を下げた。
「――守る、ね」
シャンディアが知る中でカムシンが他者を守ろうとしたことなど一度もない。シャンディアでさえ、危機に陥って助けてもらったことなどない。結果的に助ける結果となったことはあるが、彼は自分の意思で誰かを守るために戦うことはなかった。
「壊すよりはいいじゃない」
「それ、本人に言ってよ」
ルファナティカの言葉は音になっていたが、苦笑気味のシャンディア以外には届かなかった。

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