退避の失敗

粉塵の中に聳え立つ巨人から離れていく『百鬼夜行』たちとともに、シャンディアは黙って巨人――カムシンを見つめていた。
カムシンが死力を尽くして戦えど、無数の徒たちに群がられているのだ。その掌から、脚の間からこぼれた徒が一行に迫ってくる。それを細々と燃やしながら、ギュウキの自在法で戦場を逃げ回る。
(ギュウキの自在法も限界だわ)
(何か手を打たないと……それに、彼も)
(……そうね、数が多くなってきた)
ダミーを作って逃げおおせているものの、着実に追手の徒の数が増えている。なおかつ、ギュウキの様子を見たシャンディアは冷静に状況の打破を図る。
一美への守りを解くことなく、周囲からの攻撃に油断することなく、得意の気配探知で様子を探る。
「――壁」
「壁?」
ゼミナが怪訝そうにシャンディアの言葉を聞き返す。
「違う、壁の――塔の中だ」
「そういうことか!」
ギュウキが合点がいったように声を上げると、ゼミナとパラも気が付いた。状況に取り残される一美を軽く引き寄せて、ゼミナが一層の警戒をする。
「パラよ、いけるか?」
「表層の把握だけでいいなら」
「すぐ頼む」
元々顔の見えない徒であったパラが形をなくし、体は粒となって辺りに広がる。驚く一美をよそに、姿なきパラの声が聞こえた。
「さっき、構造を組み替えた時に装甲を固めたんでしょう。窓もなければ非常用ハッチもありません。自在法への抵抗力まで持っていて、操作系統が見つかりませ――」
その報告にシャンディアが眉を寄せていると、間を置いて再びパラの声。
「いえ、ありました。……なんでしょう。丁度水面に浸かる位置に極小のスペースが」
パラの言う方を見て気配を探ると、確かに微妙な違和感がある。
「ギュウキ」
「分かってらい!」
シャンディアの言葉にギュウキが自在法を発動する。シャンディアが一美の手を取って飛び降りると、一足先に飛び降りたゼミナが自身の武器であるツルハシを奮って、儀装された壁を壊す。
壊しても内部に潜入するわけでもできるわけでもない。ただ、一時的に身を隠すための退避行動だ。
それでも、徒たちと爆発を引き起こしたように見せかけてパラの見つけた小さなスペースに潜り込む一同は、ギュウキの幻惑、パラの見張り、ゼミナの手筈によって順調に隠れる……はずだった。
ドガッと音がして、戦場の流れ弾がギュウキの自在法に直撃した。
「――まずい」
咄嗟に全員へ一美と同様の自在法をかけるシャンディアが、すぐさま次の自在法を発動すべく立ち上がる。
ギュウキが背中に一美を隠し、ゼミナがそれを越えて戦場に踊りでる。
突如現れた一行がフレイムヘイズであろうと徒であろうと人間であろうと関係なかった。すでに自我を失った徒たちは相手のことなど、これからの自分たちのことなどまるで頭になかった。ただ、あるものを壊す――それだけ。
「『テカポの星』!」
近くの徒はゼミナに任せて、飛んでいる連中を露草色の炎弾で撃墜する。しかしカムシンほど大きな攻撃力を有しているわけでもない二人では手に余る。
「……っ!」
ゼミナが取り逃がした徒の炎弾がシャンディアに降りかかろうとした時、桜色の火の粉が戦場に舞った。

[*prev] [next#]

[top]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -