護衛の乗車

巨人は無数の攻撃によろめいていた。今にも川の中へ倒れそうになりながら屹立している。
未だ『真宰社』の破壊を試みる褐色の巨人と、『真宰社』のひびから溢れる露草色の濁流に翻弄されつつも、可能な限り戦力をそごうと徒が群がっているのだ。大きな掌を打ち付けようとも、『メケスト』を振り回そうとも、どこからか湧いて来る無数の徒。近くからも遠くからも、その攻撃は止まない。巨人――カムシンが集中砲火されているのは、単に的が大きく目立つからという以外に理由はない。
と、突然巨人が大爆発した。
砕け、飛び散る破片のひとつひとつが褐色の火の粉を振りまいてさらに爆発し、それ一つで十分すぎるほどの威力を持って辺り一面の視界を奪う。
金色の封絶の中をライトバンで走り回っていたある一行は、その爆発に巻き込まれかけて驚き加速していると、急激に気配が接近してきた。
「何奴!?」
車の上で襲いくる瓦礫を砕こうと構えていた一人の徒が、自身の武器であるツルハシを振り上げる。しかしそれは爆発しない瓦礫に受け止められてしまい、なおかつ一行はある事実に気が付いた。瓦礫は、見事なまでに彼らを避けていたのである。
砂煙の奥に、薄い膜のようにトンネルを作りだしている露草色の炎を見て、車内から屋根の上の用心棒へ声がかかった。
「待て、ゼミナ!」
ゼミナと呼ばれた徒は怪訝そうに目の前に降り立った人物を注視する。そこでようやく、先だってこの車でとある場所へ運んだ人物であることに気が付いた。
「ああ、お邪魔しますよ」
「ごめんね、こんな乗り方して」
カムシンとシャンディアだった。
先ほど脱してきた『真宰社』へ二人を運んだのは、この徒たち――『百鬼夜行』と呼ばれる運び屋の連中だった。彼らは、フレイムヘイズであろうが徒であろうが、仕事ならば運ぶという方針なのである。
「今さら強引に飛び乗ってくるたあ、どういう了見だい、カムシン翁にシャンディア……よ。こちとら、新しい客を乗せて別の道を行かにゃならんのだぜ?」
シャンディアに睨まれて、『百鬼夜行』の頭目であるギュウキが婆と言いかけた口を閉ざして、不満を言う。
「ああ、祭壇近辺の破壊と攪乱、という私たちに課せられた役割はほぼ果たし終えましたからね。その後は各人が最善と思える行動を取れ、という事前の取り決めに従ったまでのことです」
「それに、護衛は多い方がいいでしょう。中の人にとっても、あなたたちにとっても」
平然と言ってのけたカムシンに続いて、シャンディアが微笑む。
ギュウキは追い返したい気持ちでいっぱいだったが、シャンディア一人ならいざ知らず、『壊し屋』の異名さえ持つカムシンを追い返せる腕の持ち主などいない。
「そういうことなら断る理由もねえ、か」
本音を押さえつつ、二人の同乗を認める。しかし彼らの本来の依頼主である二人の徒のことを考えて、念押しをする。
「お嬢ちゃんを奪って逃げる、なんて言われないだけマシだ。旦那と姉御は、まだあのお嬢ちゃんに用があるらしいからな。降車のタイミングは、用が済んでから改めて相談するさ」
「ああ、では改めて、宜しくお願いします」
気にした様子もなく、カムシンは接近していた徒の流れ弾が車と接触する前に破裂させた。熱風に車体を揺られて、ギュウキがあまり交戦すると自在法で隠蔽している意味がなくなる、と不満をもらすが、カムシンはやはり平然としてそれを跳ねのける。
「ああ、今や世界中から徒が押しかけている、この有利不利どころではない状況であっても、ある程度は飛び込んで、道を切り拓いて行くしかないでしょう」
「私の自在法使うと、隠蔽してるのにバレバレになっちゃうし」
褐色の瓦礫から『百鬼夜行』を脱出させる手助けをしていたシャンディアの自在法『エルサレムの足跡』は、すでに霧散している。
「ええい、分かった、分かったよ畜生め」
ギュウキが悪態を吐きながらため息をはく。
「姉御の依頼を受けた時から、こうなるだろう、って思ってたからな。その代わり、しっかり護衛の方を頼むぜ」
「ああ、鋭意努力しますよ」
相変わらず素っ気なく返したカムシンは、車内にいるであろう吉田一美と“彩瓢”フィレス、『零時迷子』ヨーハンになにも動きがないことを不審に思い視線を落としたが、すぐに飛んできた炎弾を鉄棒で破砕した。

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