大地の犠牲

それが現れた時、さしもの徒たちにも大きな動揺が走った。真東、北東、南東の三方向で襲撃を受けた各部隊は、甚大な被害を受けつつも立て直そうとし、それを見て騒ぎ立てるのであった。
紫電走らせるゾフィーが、褐色の巨人引き連れるカムシンが、桃色を爆発させるレベッカが頂いているのは、空に薄く浮かぶ、色とりどりの球。巨大なそれを見た徒たちはある予測を立てる。
「て、『天道宮』か!?」
決して逃がすまいと攻撃をするも、当然防護されている球に致命的なダメージを与えるには至らない。そのうちに、それぞれの球を引き連れるフレイムヘイズによって討滅された。
三方向ではあるものの、それぞれは距離がある。そのため、各方面で援護を要請し、しかし援護できる人員もまた援護を要請するという堂々巡りを引き起こしていた。司令部は何が起こっているのかさっぱりわからず、目の前のことに集中するよう伝令し、一刻も早く事態を把握しなければならないと大慌ての様相を示していた。
「『テカポの星』!!」
褐色の火の粉が零れる巨人を突き崩そうと向かってくる徒を、自らの自在式で撃ち落とし、シャンディアはため息をついた。カムシンの巨人も、もちろんその大きな掌で敵を薙ぎ払うのだが、いかんせん大ぶりな攻撃であるため、かいくぐってくる者も多い。それをシャンディアが排除し、目的達成のために歩みを進めている。
「ああ、意外に燃費が悪いですね、この自在法。強固に保とうと思えば、その分だけ力も必要になるとは……」
「ふむ、厄介と思うのなら、これを自然と薄れさせても分からぬ遠くまで離れるしかないの」
「私たちはまだ楽でしょう、カムシン」
巨人の肩に座り、天秤に露草色の炎を灯したシャンディアが呆れたように言う。
確かに、二人以外はゾフィーとレベッカ、それぞれ一人だ。この『天道宮』に見せかけるマージョリーの自在法に用いる力を、カムシンとシャンディアは分散して負担している。なおかつカムシンは元々力の多い討ち手であるため、シャンディアの言うことはもっともであった。
「ああ、それはそうなんですが……」
「なに?」
カムシンが片手を振ると、数十数百の徒が吹っ飛ぶ。
「我々は目立ちすぎますから、いかんせん寄ってくる量が多いのです」
「それは、確かに」
シャンディアが片手を振ると、数十の徒が墜ちる。
しかし歴戦の討ち手二人ということもあり、しばらくすると追跡してくる徒の数が一気に減った。
圧倒的な力の前に、意気揚々としていた徒たちは、今や薄れゆく球を呆然として見つめていた。

『大地の四神』と呼ばれる、異質なフレイムヘイズがいた。
彼らはアメリカ大陸にはるか昔からおり、徒を排除してきた。
ある時、よその大陸から人間がやってきた。
『大地の四神』は大陸と、そこに住まう人間を愛し、守っていた。
しかし外の人間によって、彼らの大陸の人々は殺され、虐げられた。
彼らは、決して怒らなかった。
なぜなら、人間の行いには関わってはならないと言われていたからだ。
忠実にそれを守り、彼らの愛した人々が、大陸が破壊されていくさまをただ見ていた。
そして、ただ徒を滅していた。
しかしそれは、唐突に溢れだした。
過去最大規模の、フレイムヘイズによる『内乱』だった。
対峙したのは、あまたのフレイムヘイズと、『大地の四神』。
彼らが世界への愛惜ゆえに起こした蜂起は、発生と同じく唐突に終わった。
世界中の徒が、その争いに便乗して暴れ出したのだ。
彼らはそれを知り、自分たちの行いの無意味さを知った。
そうして矛を収め、身を潜めた。
今から、百年以上も前のことであった。

生き残ったフレイムヘイズが戦場を後にしてから、数日。
カムシンたちが偽の『天道宮』を引き連れていた時、シャナとヴィルヘルミナ、マージョリーは『三柱臣』が一人、“千変”のシュドナイと対峙していた。そして『天道宮』組が戦場を離脱したのち、彼女らもその場を脱した。
シュドナイを倒したわけでも、自在法で動きを封じたのでもない。それは一人の、尊い心によって可能となったのだ。
『大地の四神』の一人である、『皓露の請い手』センターヒル。
彼が、シャナたちが戦場を無事に脱するまでの時間を稼いでくれた。
シャナの下した、それでもフレイムヘイズとして戦うという答えへ、嬉しそうに「戦う、その決断は決して間違っていない」と返してくれた。
百余年前に収めた矛を取り出してくれた。
彼の自在法である豪雨が止んだ頃には、命あるフレイムヘイズは誰一人その場に残っていなかった。
そしてこの一人の男の死が、三人の討ち手を集めた。

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