世界の真実

「貴方たちは、今からなにと戦うつもりなのですか?」
「なんのために、生き延びようとしているのですか?」
あまりにも抽象的な問いに、口ごもる。
「私たち『大地の四神』は、この戦いに加わろうと思います」
「貴方たちの答え如何で、私たちは脱出への協力を約しましょう」
息をのむ一同を代表して、ゾフィーとタケミカヅチが問い返す。
「何故、今になって?」
「先の、我らを総崩れにした言葉と、関係があるのですかな?」
「ええ。あの言葉が、正しくも譲れないからこそ、私たちは戦います」
センターヒルの言葉に、解らないとザムエルが顔を歪める。
「正しい……新世界を創造しても、我々の世界にはなんの影響もない、という主張か?」
「だとすれば何故、譲れないと仰る?」
ザムエルたちの疑問は尤もだ。しかし『大地の四神』が言うのだ――そこには、何かある。
「私たち『大地の四神』は、両界の狭間が嵐となる真の理由を知っており、知っているがゆえに、かの神の行いを看過し得ないのです」
「狭間の荒れ理由が、さっきまでの話に関係あるってこと?」
シャンディアの問いに否定も肯定もせず、センターヒルとその契約者トラロックは続ける。
「多くの王や討ち手が錯覚するところは、悪霊が“存在の力”を消費したがゆえに世界は歪み、両界の狭間は荒れ、ひいては“紅世”をも巻き込む大災厄が起きる、というものです。しかし実際は、食われたからといって“存在の力が”なくなるわけではありません」
「我々が悪霊を退けたとき、彼らは残された“存在の力”を炎に変えて散ります。“紅世”に持ち帰ることはできないのです」
世界の存在の総量はそうして常に保たれている、と二人は言った。
「そして狭間が荒れる真の理由とは――悪霊が、人や物を“存在の力”という不安定なエネルギー状態に変換したことです」
「彼ら悪霊が“存在の力”を使って、世界に物体を、あるいは現象を還元した時、その分だけ世界は正常さを取り戻します。この事実と“祭礼の蛇”の言葉からとある推論ができるのですが……わかりますか?」
その問いには、静かに話を聞いていたシャナが簡潔に答えた。
「もし“祭礼の蛇”が言った通りに大多数の徒を引き連れていけば、その分の“存在の力”が世界に還元され、歪みも正常化し、大災厄も防げるってこと?」
「その通り。どのような形で世界へ還元されるかはわかりませんが……」
「いずれにせよ狭間の嵐は静穏へと還り、来るべき大災厄の危機も当面は去るでしょう」
「聞けば聞くほどいいこと尽くめじゃねえか。それのどこが譲れないってんだ?」
自身はもちろん“祭礼の蛇”に賛同してはいないが、今の話では疑問を差し挟む余地がないとレベッカが首をひねる。
「両界の狭間は、“祭礼の蛇”が自身で体験したように、広大無辺です。この世において起きたような変質がない限り、この世と同じ大きさでもって新世界が出現しても、特別な異変は起きないでしょう」
「しかし、もし新世界がこの世と同じ性質でもって狭間に出現するとなれば、この世に悪霊が渡り来るのを遮る防波堤になる、という主張が正しくとも……」
その先を読み取ったヴィルヘルミナが呟く。
「新世界の方で人間が食われたり、物が“存在の力”に変えられたりすれば、狭間の嵐も、遠い未来の大災厄も、いずれ今と同様の形で再来するということでありますな?」
「ああ、もしや、譲れないものとは、潤沢な“存在の力”で満たされるという新世界であってもなお、彼ら“徒”が起こすに違いない、変質を伴う乱行のこと、ですか」
自身が世界の歪みを補正する調律師たるカムシンの理解は端的で、かつわかりやすいものだった。
「ふむ……儂ら契約した“王”の側ならば、その観点も分かるが……」
ベヘモットがあえて濁した言葉を、シャンディアがはっきりと口にする。
「“この世の側”の人間には、そんなことに付き合う義理はない。だけど、『大地の四神』――あなたたちはそれでも“祭礼の蛇”と戦うのね」
「ええ。私たちが『世界』と呼んでいるものゆえに、譲れないのです」
その言葉に、シャナが力強く告げた。
「この世も“紅世”も、狭間も新世界も、全てを包括したものが『世界』だから」
センターヒルは満足げに笑った。徒たちの行いを彼ら『大地の四神』は阻もうとしている。そしてフレイムヘイズが賛同してくれるのなら、彼らもフレイムヘイズに助力を惜しまない、と。
けれどもとはと言えば己の感情――怒り、憎しみ、絶望からフレイムヘイズとなったのだ。簡単に割り切り、聖人君子のように「はい」と答えることはできない。それは最古の討ち手であるカムシンやシャンディアであってもだ。
――しかし、ただ一人。
「シャナ」
純粋に使命を奉じて生まれた異端のフレイムヘイズ――天罰神“天壌の劫火”アラストールが契約者、『炎髪灼眼の討ち手』シャナ。
はじめて口を開いたアラストールの呼びかけ。
「戦うのだろう?」
あっさりと、さも当然のような確認の言葉に、シャナは同じく、あっさりと、当然のように答えた。
「うん」

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