戦士の窮地

誰もが困惑し、驚き、そして見た。
レベッカの炎で未だ燃え盛る中空に、金色の火の粉が散って消える瞬間を。
(あれは、まさか……!)
シャンディアが気が付くと同時に、本物のサブラクが嗤う。
「つまりは、三眼の女怪に託された身代わりの“燐子”というわけだ」
(燐子……彼は何かを従えるような性格ではないから、まさかこの土壇場で身代りに燐子を使うなんて思わなかった)
(三眼、ね。『三柱臣』のベルペオルで間違いないでしょう)
存在の力を察知することにかけてはかなりの自負があっただけに、シャンディアはほぞを噛む思いだった。
二太刀は受けまいと跳んで逃げたレベッカだが、既に自在法『スティグマータ』は刻まれてしまった。次にサブラクが狙うのはまだ傷を負っていない、カムシンとシャンディア両者への攻撃だった。
サブラクはシャンディアに向かって歩みを進めて嗤う。
「俺が一帯に染み込んでいるために、存在の力など感知できなかったろう」
「そうね、感じてた違和感の正体がやっとわかって清々したくらいだわ」
憎まれ口を叩きながら、水のように流れる炎で姿を隠し、建物の裏に身を潜める。
サブラクは間違いなく、戦力が劣るシャンディアを先に片付けようとしている。カムシンの援護という点ではそれなりに厄介だが、単体ではそれほどの攻撃力を持たないフレイムヘイズ――的確にその事実を見抜き、『スティグマータ』を刻もうとしているのだろう。
「逃げても無駄だ」
「ああ、どうでしょう」
「ふむ、余所見とは随分調子に乗られたものじゃ」
短く舌打ちをしたサブラクは、カムシンの攻撃を防ぎ、斬り返す。カムシンはすぐに飛びのいて、建物に突っ込んで瓦礫を作りながら身を隠した。
その間にシャンディアはヴィルヘルミナとレベッカが隠れ休んでいる辺りまで後退した。今はかろうじてヴィルヘルミナの白いリボンで止血しているが、どんな自在法でも傷を消すことはできない。
「やっぱり駄目?」
「ええ。前回の対策も無意味、思いつく限りの手立ても全て効果なしであります」
眉をひそめてため息をつく。さすがのサブラクも、目の前にカムシンがいる間はこちらを追う余裕がないようだ。今のうちに何か考えなければ。
(術者を討滅できれば、治せないという特性もなくなると思うのだけど……)
(それで、どうやって討滅するつもり?)
(そうなるのよね)
四人がかりでやっても敵わないのだ。今だって、カムシンですら押されている。地の利があちらにあるというのは大きな要因だが、なけなしの瓦礫で作り上げた巨人を以てしても力は拮抗している。
「くそっ、ジジイが派手に動ければ」
レベッカが悪態をつく。言っても詮方ないことだが、攻撃力を大きく削られた今、思わずにいられない。『壊し屋』の「こ」の字も力を発揮できていないのだから、当然と言えば当然のこと。
「!!」
(――何、今の?)
シャンディアの背筋を悪寒が走った。思わず身を震わせてしまったほどだ。
すると、カムシンの方で大きな爆発が起きた。粉々に砕けて飛ぶ瓦礫を見る限り、状況は芳しくない。それを示すように儀装を解いたカムシンがやってきて、右手を挙げながら言った。
「ああ、やられてしまいました」
事態は、最悪の方へと転がっていた。
「カムシン……それだけじゃない」
その言葉に頷く。彼の右手にも『スティグマータ』が刻まれていて、すでにヴィルヘルミナのリボンが巻いてある。しかしシャンディアが言いたいのはその点ではなく、また彼も、他の二人にして四人もわかっていた。
シャナと、創造神“祭礼の蛇”の間に起こった出来事、そしてここでどれだけ抗おうともどうしようもないということ。
「でもやるっきゃねえだろ」
「私達の役目は、」
「ああ、死ぬまでは戦う。それのみです」
一同は顔を見合わせてから、示し合わせたように散り散りになってサブラクへの攻撃を開始した。

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