挟間の戦い

散り散りになったところ、サブラクは迷わずにヴィルヘルミナを狙って攻撃を繰り出してきた。
まるで踊っているかのように、白いリボンでサブラクの刃をかわし、そらし、攻撃さえする。負傷しているとはいえ、戦技無双と謳われるだけのことはある。
「う、ああっ!?」
突如、ヴィルヘルミナが苦痛の声を上げた。腕に巻かれた包帯から血がにじんでいる。
傷口から伸びた茜色のリボンをサブラクが立ち切った瞬間の出来事だった。
深手を負ったヴィルヘルミナを追撃するサブラクに桃色の火球が激突し、撃った当人であるレベッカがヴィルヘルミナの体を抱きとめた。
「すまねえ、遅れた」
そのまま壊れた城塞に潜り込んで様子を窺う。
ヴィルヘルミナの傷を見ながら、バラルが冷静に分析する。
「彼は、かつての切り札を、改めて解除も治療も不能という点のみに特化した式へと組み直したわけか」
茜色の炎が地面に走ったかと思うと、そこから爆発が起こる。レベッカはヴィルヘルミナを抱えて飛びあがった。次々と襲い来る攻撃を避けながら、炎弾で応戦する。
「吹っ飛ばし甲斐のない野郎だ。いっそジジイどもと代わってほしいぜ」
「人には向き不向きってものがある。僕らにはできないことが、彼らには――っ、と?」
『カデシュの血印』が大きく灯り、爆風で飛び散っていた瓦礫が瞬時に巨大な掌を作りあげ、二人を包みこみ勢いよく運ぶ。
「怪我人がいるんだぞ!」
「ああ、それはごめんね」
運んだ本人であるカムシンの代わりにシャンディアが謝ると、そのカムシンが悪びれる様子もなく告げた。
「ああ、こちらの不都合で、色々手間を取らせて申し訳ありませんでした」
「ふむ、囮となってもらった時間分は、しっかし仕掛けさせてもろうたよ」
「こっちも準備完了」
「ヴィルヘルミナ、大丈夫かしら?」
『ウンディーネ』の水盆だけを手にしたシャンディアに続いてルファナティカが声をかけると、ヴィルヘルミナは苦痛を押し殺して問題がない旨を告げる。カムシンはただ頷いた。
「ああ、では、始めましょうか」
一同はバラバラに飛び出し、サブラクを罠へ誘導するために攻撃を仕掛けた。無論、誘導といっても一撃一撃が全力で、それで倒せるならば倒すほどの威力を持っている。
レベッカの炎弾で視界を塞ぎ、ヴィルヘルミナのリボンで動きを封じて投げ飛ばし、カムシンが『メケスト』を操り石塊を叩きこんだ。それでもなお、敵は傷一つない。
「ああ、呆れかえった頑丈さですね」
カムシンはそう嘆息してから、『メケスト』を構えた。
「起動」
「カデシュの血脈、展開」
サブラクを中心に自在式が展開し、まるで檻のように取り囲む。そして、辺りに浸透している彼の本体と、地面に横たわる姿を切り離していく。
「さあて一発、ド派手に行くか」
力を十分に蓄えたレベッカがサブラクに狙いを定める。
「この俺が、同じ戦法で討滅し得る、などと侮られるとはな。敗北とは、かくも不愉快な果実を後に実らせるのか」
しかし当のサブラクは不敵を通り越す余裕を見せつけながらそう呟くだけで、何らかの危険を感じとったレベッカはすかさず一撃を叩きこもうとして、契約者に制止される。
「待て、レベッカ!周りを見ろ!」
「なんで止め、」
怒鳴りながらも周囲を見た彼女は気が付く。辺りに罅が入っていることを。それは地割れなどではなく、『詣道』の一部である世界に罅が入り、一度迷えば出られない次元の挟間が待ち構えていた。
なぜ罅が、など考える必要はなかった。
「このまま俺を閉じ込め続けると、拠って立つ『詣道』そのものが砕けるぞ?」
レベッカたちがいる『詣道』そのものを人質にとっての脅迫だった。サブラクを巻き込んで自滅覚悟というのもできなくはない。
しかし。
(蛇なら『詣道』が壊れても飄々と帰れる方法くらい持ってそうだし、ここで無駄死になんつーのは避けねえと)
レベッカは即座にそう判断し、「ジジイ自在法を解け!」とカムシンに叫んだ。
数秒後、自在法の檻が解け、サブラクが歩みを進める。世界の罅は急速に戻っていく。
「さて、既に察していようが……」
余裕を含んだサブラクの言葉を遮ってレベッカが吠える。
「まだだ!!」
連続した爆発で、サブラクの立つ地面が浮かび上がる。
地面から露草色の奔流がサブラクを包み一瞬の行動を奪う。
真っ白なリボンが無数に伸びてサブラクを閉じ込める。
「喰らって弾けて燃えて死ねええええ!!」
通常の数倍はありそうな炎弾がいくつもリボンの繭に激突し爆発を引き起こした。
「っしゃあ!」
快哉を叫ぶレベッカだが、シャンディアはその一瞬で違和感を感じとる。
(なんだ、これは……っ!)
「レベッカ!!」
注意を促すも、間に合わず。
背後から、斬り付けられた。

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