茜色の強敵

シャンディアが未だ『神門』を見上げていると、腕に一条の白いリボンが巻きついて体を引っ張られた。
「ヴィルヘルミナ」
狐のような仮面をし、そこから無数のリボンを伸ばしたヴィルヘルミナだった。先まで倒れていたレベッカも同じようにつられている。
(奪還というより、合流って感じ)
紅蓮の翼で空を飛ぶ少女、シャナを眺めながらシャンディアはぼんやりと考えた。
「『儀装の駆り手』!」
「ああ、ようやく……来てくれましたね」
「ふむ、待ち遠しい切り上げ時の到来じゃの」
そう言って巨人は身体を維持することをやめ、身体を構成していた瓦礫で空中に巨大な球体を作り上げた。シャナたちはその中にいる。
「ああ、これで数分は持たせられるでしょう」
「それじゃあまず、詳しい話を聞こうか」
傷だらけだが、以前よりも決意の固い瞳と目を合わせてシャンディアが言うと、シャナは一度頷いた。
脱出するまでの経緯、『三柱臣』と創造神“祭礼の蛇”らの行動、頭上に浮かぶ『神門』についての説明を済ませると、シャナは強く言い放った。
「私は、このまま『天道宮』へは脱出しない。戦争にも加わらない。悠二を追う」
(いつの時代も、愛は無敵ってことかな)
先代『炎髪灼眼の討ち手』を思い出しながら、内心で苦笑を浮かべる。
「ならば、私もご一緒させていただくのであります」
「ああ、外の戦いよりも、あるいは急務かもしれませんね」
「当然、オレも行くぜ。今さら遠慮も仲間はずれもなしだ」
「ま、行かないわけもないでしょう」
フレイムヘイズたちが同意を示したところで、シャナは礼の代わりに言い放った。
「行こう――『神門』へ」

『神門』の中は『詣道』と呼ばれ、簡単に言えば人間界と紅世の挟間の次元である。
「来る!!」
シャンディアがその強大な存在の力を感知して叫んだ瞬間、前方に見えていた中世の城砦群から茜色の炎が噴出し、様々な剣の形を取った。
「ほいじゃ、先のことは任せるぜ、贄殿の!」
レベッカはシャナの行く手に桃色の炎弾を撃ち、
「ああ、では」
「ふむ、我々も」
カムシンは『メケスト』を高速回転させて竜巻を作り茜色の剣を弾き、
「創造神の方は頼むわね」
シャンディアが『エルサレムの足跡』で道を作ると、シャナは燃え盛る翼でその中を駆けていった。
剣がシャナを諦め、残る三人目掛けて飛んでくる。それよりも早く、ヴィルヘルミナの伸ばしたリボンが身体を包み、猛攻に耐える。
(たしかに奴さん、大した力ね)
存在の力を探ったシャンディアは、初めて相対する“壊刃”サブラクに脅威を覚えた。圧倒的な耐久力と回復力、カムシンに勝るとも劣らぬ破壊力を誇ると話には聞いていた。
(辺りに染み込んでる気配が全部本体って、さすがにビビるわ)
剣の猛攻が終わったのか、リボンが解かれシャンディアたちは地に降り立つ。
城砦群の頂に立ち、茜色の炎を背に、マントをはためかせ、顔を長い布で幾重にも覆い隠した紅世の王――サブラク。
「炎髪灼眼は取り逃がしたか。物事とは思い通りにいかぬものよ」
両手に二振りの剣を握ったサブラクが、誰ともなく呟く。宿敵だの仇だのと零れる言葉を拾うのはレベッカだった。
「孵らぬ雛を数えるな、って諺を知らねえか」
「まだ実現していないことを前提に語るのは愚かしい、という意味だね」
「久しいな、“縻砕の裂眥”バラル、『輝爍の撒き手』レベッカ・リード。さすが、我が宿敵に手抜かりはないか」
レベッカに目を向けたあと、最古のフレイムヘイズを探して視線を巡らせた瞬間、サブラクの頭上から『メケスト』につながれていた大きな石の塊が落ちて激突した。
「ああ、悠長にお喋りしている暇はないでしょう」
「ふむ、そうでなくとも、奴の話は取り留めなく長いからの」
まったくの先制攻撃だったが、無傷のサブラクは茜色の炎で、素早く逃げだした四人を追う。
「ああ、一応報告しておきますが……」
攻撃をかわしながら、カムシンがぽつりと言った。
「どうやら『儀装』を組めないようです」
「ああ、そうかい――って、なにぃ!?」
何気なく返し掛けて、レベッカが驚愕に目を剥く。
「どういうことでありますか」
「説明要求」
ヴィルヘルミナとティアマトーの言葉に頷くと、カムシンは城塞の壁に『カデシュの血印』を発動させる。褐色の炎に混ざって僅かばかり茜色の炎が見える。それに構わず、『メケスト』を大きく振るって壁の一部をもぎ取るように後方へ迫っていた炎へぶつけた。
「ごく小さな領域を力任せに引っ張って、ようやくあの程度。細かな制御・統合を行い巨大な『儀装』を組み上げるのは、現状では不可能ですね」
「そうか、“壊刃”が辺りに浸透してるから……」
すでにここは敵の領域で、カムシンが上から力をかぶせるだけでは応戦しきれないという訳だ。
(加えて……)
右腕に傷を負い、包帯としてリボンを巻くヴィルヘルミナを見て、シャンディアは状況説明に心ばかり眉を寄せた。
(サブラクお得意の広がる傷『ステイグマ』の改良版があるから、できるだけ怪我を負うなってことね)
歴戦のフレイムヘイズ四人がかりでも簡単には倒せない相手であることを再確認し、地面から漏れる茜色の炎に一同はばらけた。

[*prev] [next#]

[top]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -