聖室の破壊

呆然と、そして慌てふためく徒を尻目に最初に動いた影は三つ。
カムシンが巨体を屈め、『メケスト』を猛然と振るった。
レベッカが高く飛び、無数の炎弾を投げつけた。
レベッカと対峙していたプルソンが『メケスト』の先端から離れんとした礫に攻撃した。
それがほぼ一瞬で起こり、カムシンたちは内心舌を打ち、プルソンは徒たちを一喝して再び統制した。
レベッカが飛びまわり、桜色の炎をまき散らしながら辺りを爆発させていく。『儀装』のカムシンにそれが痛手となるはずもなく、プルソンら徒たちが一方的に追い詰められている状況だ。
(ちょこまかと――!)
そのプルソンはレベッカを狙って自在法を繰り上げている最中、天に向けて拳を掲げる褐色の炎をまとう巨人を見た。
(腕が、真上を向いて……いかん!)
拳の先には、彼らの守っていたものがある。
彼はシャンディアが見当たらないことにも気付かず、貯めていた力を全て巨人に向けて撃ちはなった。
炎を一気に吹き散らす衝撃波の疾走を、カムシンは巨人の片腕で防ぐ。残った腕は未だ上を向いたままだ。そして衝撃波もどこからともなく現れた露草色の炎に巻かれて威力を落とし、巨人に決定打をあげることができない。
「っ『罪科の秤り手』か!!」
炎を見てやっと、シャンディアを見失っていた失態に気付く。しかし後の祭りで、『儀装』の肘から先が砲弾、あるいはミサイルのように空へと上っていく。カムシンが持つ切り札の一つ、『アテンの拳』だった。今やシャンディアの『エルサレムの足跡』が必要ないほど真っすぐに飛んでいく。
「止め――」
プルソンの制止も虚しく。
「やっちまえええええ!!」
レベッカの快哉を受けて。
「ああっ!?」
徒たちの絶叫が響き。
それら全てをかき消すほどの大爆発が起こり、真の星空が広がった。
あまり進んで戦うわけでもないシャンディアだが、状況が状況なだけに高く飛びあがり、『ウンディーネ』に露草色の炎を灯す。
「『天秤よ、秤りたまえ』」
「『汝が罪を』」
「『天秤よ、教えたまえ』」
「『汝が罰を』」
声を掛け合い、襲い来る徒を次々と焼き払っていく。シャンディアの炎では、どちらかというと水の奔流で飲み込んでいると表現した方が適切だが。
(『輝爍の撒き手』の方へ行かなくて良いのですか)
カムシンが壊される端から『偽装』を繰りながら、シャンディアに話しかける。
(行きたいのは山々だけど、多分相手の思惑通りになるから……ないと思うけど、あんまり劣勢になったら行くよ)
爆発が連続して起こる一帯を見下ろす。
(ああ、そうですか。では気を付けて)
相手への気遣いを表立って示さないカムシンの言葉にシャンディアが首を傾げた時、巨人の身体から声が響いた。
「――『セトの車輪』を」
「!!」
その瞬間、シャンディアは巨人の肩に飛び乗った。
徒たちはシャンディアの行動に驚き、続いて巨人の頭上で回転する瓦礫の輪を見て何をすべきか察した……が、行動に移すよりも先に、あっさりと瓦礫は辺りへ飛び散り、彼らを容赦なく押しつぶした。
「……まだ『壊し屋』名乗っていいんじゃない?」
呆れながらシャンディアが呟いた。彼ほど圧倒的な破壊力を見せつけるフレイムヘイズは当代数えるほどしかいないだろう。
(ああ、それより、『あんまり』みたいですが)
カムシンの言葉に遠く、レベッカたちが戦っている方角に目を向ける。
プルソンの自在法に撃たれながらも反撃を狙うレベッカの姿を見て、巨人の肩を蹴った。無言で『ヴェネツィアの舟』の櫂を取り出すと、スピードを上げて空を駆る。
(間に、合え!)
衝撃波の軌道さえ逸らせればいい。露草色の炎の濁流がプルソンにぶつかる……直前。
『星黎殿』が大きな衝撃を受けたように揺れた。
プルソンを巻き込むことなくシャンディアの炎は流れた。しかし彼の自在法も揺れのせいで狙いを外し、逆に瀕死のレベッカが僅か遅れてはなった炎弾が彼に当たり、爆発した。
(何、が)
レベッカが無事であることを確認して震源を探したシャンディアは空を見上げて唖然とした。
『秘匿の聖室』が粉々に砕け、隠されていた銀の縁取りを持つ黒い鏡が浮かんでいた。
「あれが……?」
「ええ……それと、もう一つ伝えておくことがあるわ」
シャンディアの視線は、『仮装舞踏会』たちが最も隠すべきであった『神門』に釘づけのままだ。
「『星黎殿』が地上に落ちたようね。先の地震はそのせいよ」
カムシンが『星黎殿』を宙に浮かばせて隠すための『秘匿の聖室』を破ったことを、今更思い出した。

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