天空の奇襲

移動要塞『星黎殿』……、『仮装舞踏会』の本拠地である。何人にも見えず、存在を感知されることもない、中に浮かぶ城。
そこで今、桃色の光と褐色の光が爆発した。
「さーあ、派手におっ始めようぜ!」
ここは紅世の徒が集う。フレイムヘイズであるレベッカの声が辺りに響き、轟音とともに爆焔が広がった。信じる信じないの次元ではなく、本来ありえないはずの事象だった。
『星黎殿』の上空、永遠の夜空に浮かぶ宝具『秘匿の聖室』目掛けてレベッカの桃色の炎がまっすぐに飛んだが、粒子に阻まれ、堅守に守られる。
「さすがは“嵐蹄”フェコルーの『マグネシア』。そう簡単には突破できないわね」
シャンディアは『儀装』をまとい、瓦礫の巨人となったカムシンの肩に乗って、奇襲に戸惑いながらも軍としての統制が取れ始めた徒たちを見下ろし、天空を振り仰いだ。
「ふむ、伊達に『星黎殿』の守護者を名乗ってはおらんの」
「見た目は派手な花火でも、本命が無傷ってんじゃ締まんねえな」
いっそ全部ぶち壊すか、と言った短気な同胞に、シャンディアは苦笑いを浮かべた。
そうしている間にも攻撃が繰り出され、巨人はびくともせずに辺りを破壊していく。
(おかしい……)
(そうね……あの『三柱臣』はもちろん、祭礼の蛇が姿を見せないなんて。今回の奇襲は絶対に予測不可だったはずなのに)
(もしかして……ここには来られない状況なのかな?)
シャンディアたちは、小細工と言えば小細工、しかしある意味では正々堂々と『星黎殿』に侵入した。即ち、対として作られた『天道宮』と『星黎殿』を近付けて次元を無視した通路を作ったのである。
(ああ、それはそうなのですが……)
カムシンが声に出さず会話に入ってきたので、シャンディアは思わず巨人を見た。
(ふむ、今はこちらの活動に加わってほしいものじゃな)
群がる徒たちを片づけるのは、かつて『壊し屋』とさえ呼ばれたカムシンにも手間がいるらしい。
シャンディアは巨人の肩に乗ったまま宝具『ウンディーネ』を取り出し、両手を広げた。
「汝の罪を秤り」
「汝に罰を下す」
天秤の両側に下がっている水盆に露草色の炎が灯る。
「自在式『テカポの星』!!」
炎が小さな礫となって、幾千も空に昇った。そしてそれらはさらに分裂して増殖し、無数の炎の矢となって地に降り注ぎ、徒を貫いた。
景気良く爆発を起こしたレベッカが高らかに口笛を吹く。
「やるじゃんババア、隠してたのか」
「私の出る幕がいつもはないだけよ」
ちらりと、瓦礫の鞭を振るう巨人を見てシャンディアが言うと、レベッカは「違いねえ」と笑った。
(ヴィルヘルミナは、シャナと合流できたかしら)
『儀装』の大雑把な攻撃では及ばない徒目掛けて『テカポの星』を下しながら、シャンディアは気配を探る。
気配を探るのは得意だが、特殊な自在法が使われていたり、ただの徒や人間を探すのは容易ではない。シャナの気配をここに来てから一度もつかめておらず、当初の予定とは異なりヴィルヘルミナ一人に捜索を任せたほどだから、今のシャナはほとんどただの人間と変わらないのだろう。おそらくは神器『コトーキュス』が彼女のもとには無く、アラストールと別々でいるのだ。
(さて、どうかしら。それよりレベッカの助太刀に行かなくていいの?)
ルファナティカの言葉にふと周囲を見回すと、いつの間にか紅世の王と戦っているレベッカの炎が見えた。短気で粗雑だが、その戦闘スタイルはフレイムヘイズでも屈指のものとされるレベッカがなかなかに苦戦している。
「カムシン」
(ああ、なんです)
カムシンが声を出すと『儀装』全体から響いてしまうためか、彼は声を出さずに反応した。
「レベッカの方に行って……」
その瞬間、紅世の徒が、王が、シャンディアたちが、言葉を失った。天を振り仰ぎ、瞠目する。
(鉄壁を誇る『マグネシア』が、消えた……!?)
その先には、『星黎殿』の由来たる偽りの星空が広がっていた。

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