目的の阻止

カムシンが屋上の柵に跳び乗ると、担いだ神器の重さに歪んだ。
「あ。カムシン、マージョリー」
「ああ、そうだ、忘れていました」
シャンディアが声を掛けると、先程シャナへ連絡した付箋をもう一度手に取った。一方的に連絡を伝えると、彼は向かいの廃ビルに飛び込んだ。
「ああ、では始めますか」
「ふむ」
やはり軽々と鉄棒を振り回すカムシン。同時にシャンディアが両手を広げ、天秤の両側に乗せられた水盆に露草色の炎が灯る。
「儀装」
「カデシュの血印、配置」
カムシンらのいる廃ビルの一室に、自在式が壁へ、天井へ、床へと刻みつけられる。
「起動」
「自在式、カデシュの血脈を形成」
『カデシュの心室』に浮かび上がったカムシンが鉄棒を突き出し、ベヘモットの言葉に反応して褐色の炎が縄のように噴き出し、コンクリート壁にひびを入れた。
「『エルサレムの足跡』」
コンクリートにひびが増える中、シャンディアの声が響く。
「展開」
「自在式、カデシュの血脈に同調」
炎の縄が傍らのものとよりあわされ、少しずつ太く、まとまっていく。その数十本が『カデシュの心室』と結合した。建物が内側から破裂したように崩壊し、粉塵が巻きあがる。そして露草色の光が一筋、ビルから駅まで緩やかな弧を描いて伸びた。
未だ煙が立ち上る中、大きな影がゆらりと立ち上がった。悠二が驚きに目を開く。
そこには、全身から褐色の炎を吹き散らす巨人がそびえ立っていた。
「これが……『儀装の駆り手』……」
呆然とする悠二に、シャンディアが駆け寄る。
「お嬢さんをつれて物陰に隠れていて。カムシン、結構派手に壊すから」
「え?」
返事を聞くこともなく、再び駆けていく。『エルサレムの足跡』が太くなり、巨人となったカムシンの腕がゆうに通れるほどの幅となった。
「カムシン!」
「ああ、助かります」
巨人はいつの間にか、その手に『メケスト』を握っていた。カムシンには大きすぎるように思えた鉄棒も、巨人にとっては鉛筆程度だ。しかしそれには、褐色の炎でつながった無数の瓦礫が鎖のように連なり、鞭として振るわれていた。
大きく振りかぶったその先端、ひとつの瓦礫が鞭を離れ、駅に向かって飛んでいく。一瞬広がった露草色の通路に取り込まれると、それは道からそれることなく真っすぐに飛び、落下して破壊音を轟かせた。
「あ……少しずれた」
「……シャンディア」
「マージョリーたちなら大丈夫。……だと思うよ」
契約者を呆れた声で嗜めるルファナティカだが、当の本人は小さく肩を竦めるだけだ。
カムシンは次々と瓦礫――『ラーの礫』を放っている。先方も派手に動いているのか、遠く群青色の炎が見える。
そしてその先方から、合流するようにと連絡が入り、カムシンはその巨体で大きく踏み切り、御崎市駅に向かって跳んだ。シャンディアは慌てて『ヴェネツィアの舟』を出し、その後を追った。
不気味な汽笛が夜空を裂いた。逆転印章最後のピース、“探耽求究”ダンタリオンの到着も近い。
「シャナの姿が見えない……気配ははっきりとしているけど」
群青と褐色の炎が入り乱れる破壊の中心地で、シャンディアは近付いてくる列車を睨んでいた。時折『エルサレムの足跡』を軌道修正し、二人にして四人の破壊者の攻撃をかわしている。
「あれそのものを何とかしないと……」
「ちょっとそこの婆さん!ぶつくさ言ってる暇があるなら、爺に伝えてくれない!?」
不意に、マージョリーがシャンディアと背中合わせに降り立つ。
「高架と線路をブチ壊して、ブチ落としてってね!」
「だってカムシン、聞こえた!?」
露草色の通路が向きを変え、こちらに走ってくる列車を支える柱に狙いを定める。巨人はカムシンの声で返事をすると、鞭を持たない手をそちらに向け、その肘から先が褐色の炎を吹いて、轟然と発射した。
「――当たる!」
シャンディアの呟きとほぼ同時に、巨人の腕……『アテンの拳』が高架を、そして橋脚を粉砕した。
……が、しかし、用意していたのか、ジェット噴射のように白けた緑色の炎を射出して、列車が駅のホーム目掛けて飛び込んでくる。
「間に合わなっ……」
その瞬間、後続していた車両から紅蓮の炎が吹き出し、煌めく太刀の切っ先が現れた。飛び出してきたシャナはなぜか涙目で太刀を振りかぶると、教授の乗っていた車両を破壊し、なおかつ駅方向から飛んできたマージョリーの炎弾が止めとなり、逆転印章もろとも大爆発を引き起こした。

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