怨敵の目的

玻璃壇に映し出されている、教授の自在法を込めたミサゴ祭りの看板が次々と破壊されていくのがわかる。悠二は歓声をあげながらその様子を見守っていた。
「同じ“神”でも、まったく攻撃力に差があるんだね」
「あちらはかの炎髪灼眼の討ち手、ですもの」
待機しているビルからちらりと見えた、紅蓮の翼を抱く少女を見送り、シャンディアがイヤリングを爪で弾く。
「お嬢さん、様子はどう?」
「えっ」
振り返って唐突に話しかけると、吉田がはっとする。シャンディアがため息をつくと、続きをベヘモットが受け取る。
「ふむ、あれだけ自在式を破壊すれば、なにか、あの駅で進んでいた作業、連中の本当の狙いを感じられんかね」
「す、すいません、今やります!」
吉田は慌てて目を閉じ、心を集中させる。静かに研ぎ澄まされていた吉田の精神が、徐々に不安や恐怖の色に塗りつぶされていく。
(精神が揺れている……?一体何が、)
がくん、と吉田の意識が飛んだ。気絶したわけではないが、大きなショックを受けて声にならない叫びをあげる。
「ああ、お嬢ちゃん!?」
「カムシン・ネブハーウ、刮目せよ!」
少女の体を支えるカムシンに、ベヘモットが厳しく言葉を飛ばす。シャンディアも同じように玻璃壇に目をやる。吉田の感じたままを映し出した御崎市の駅が、そこにあった。
「逆転印章!!バカなの!?」
真っ先に気がついたシャンディアが叫ぶと、遅れてカムシンが口早に紡ぐ。
「未完成……いや、そうか“探耽求究”め、なにを考えている!?」
「ふーむ!奴にそれを問うはまさに愚の骨頂というものじゃ!」
ベヘモットまで切迫した様子で、心配そうに吉田を受け取った悠二が焦りながらカムシンに状況を訊ねる。
「な、なにが起こったんだ?あの自在式は?」
いつも以上の早口で、必要事項だけの説明をカムシンが返す。
「ああ、あれは自在式を正反対の向きに作動させるための仕掛けなのです。逆転印章と呼ばれる種類の、普通は相手の攻撃に対する防御陣などにしようされる自在式なのです、が」
「それをこんな大規模で調律に対して行うなんて、相変わらずね!」
シャンディアがカムシンの言葉の先を奪う。やや遅れてその意味を理解した悠二が、恐怖したような視線を二人に投げかける。
「ああ、つまり、“探耽求究”の狙いは、歪みの極限までの拡大だったのです。この街の物質以上、存在そのものの完全破壊と言っていいでしょう」
「ふむ、攪乱はつまり、こいつを隠すのが本来の役目だったんじゃよ。もしこんなものを構築している気配が僅かでも漏れ出ていたら、儂らは損害や犠牲などを無視して、全てを破壊すべく動いたじゃろうしの」
ベヘモットの言葉に、悠二は驚き、聞き返す。
「完全破壊!?それは御崎市が丸ごとなくなるってことか!?」
「うん、この街の存在丸ごとね」
「そうすることでこの世にどんな影響があるかしら……ああ、そういうことかしら。だから、実験するのね」
呆れかえったルファナティカの言葉に、カムシンも小さく頷く。教授を知らない悠二だけが縋るすべを探している。
「ちょっと待ってくれよ!それじゃあ仕掛けた本人も巻き込まれるんじゃ…!?」
しかし、肯定。
「ああ、その通りです」
「ふむ、そういう奴なのじゃ」
絶句する悠二を放置して、マージョリーから受け取った通信用の付箋を使い、今し方判明した事実をシャナに伝える。カムシン、そしてシャンディアの参戦を手短に告げて、カムシンは宝具『メケスト』を軽々と肩に担ぎなおした。
「ああ、坂井悠二君、お嬢ちゃんを頼みましたよ」
「あ、あんたたちも戦いに出るのか」
悠二が恐る恐る訊ねる。シャナと同い年くらいのシャンディアならわかる。しかし、シャナよりも幼い外見のカムシンが、マージョリーにまで恐れられる理由がわからなかった。
「ああ、幸い、この辺りには廃ビルが多いようですしね」
「ふむ。結構」
詳しくは語らないカムシンにそっとため息をつき、シャンディアも天秤型の宝具『ウンディーネ』を取り出した。

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