仕掛の秘密

「確かに、そうだね…」
悠二の言葉にシャンディアが頷くと、シャナが玻璃壇の河川敷、その中央を指差した。
「あの真ん中のはなに?」
「花火を打ち上げるための浮き船だよ」
「花火が歪んだのは、これのせいか」
シャナに答える悠二の隣で、田中が忌々しげに呟く。カムシンは顎に手を添え、理解したように頷いた。
「ああ、我々が起動した自在式から制御を手放した一番最初に、この密集した自在式が反応して、歪みを生み出したのですね」
「ふむ、それで、」
ベヘモットが遠慮も気遣いもなく、悠二に質問をする。
「君がお嬢ちゃんになにをさせたかったのか、教えてもらえるかの?」
悠二は吉田に今一度、確認をとるように視線をやると、少しの間黙り、口を開いた。悠二も、教授の存在を強く感じているのだろう。
「……僕は、もう一度、吉田さんに調律の元になるイメージを写し取る作業をやってもらいたいんだ」
悠二から驚くフレイムヘイズへ説明がなされる。
単純に言えば、歪まされた今の御崎市と、本来の御崎市の違いを感じてもらうということだ。そこから、敵の仕掛けや意図が判るのではないかと、悠二は説明した。
「ああ、なるほど」
「あり、だね」
弔詞の詠み手が評価するだけはある、とカムシンに続けてシャンディアも同意する。
「ああ、時間もありませんし……よいですか、お嬢ちゃん?」
「はい。お願いします」
吉田の力強い返事を受けて、カムシンは肩に担いでいた『メケスト』から布を取り払い、被っていたパーカーのフードも取った。
「さあ、始めましょうか」
指揮棒のように軽やかに鉄棒を振り下ろすと、突如褐色の炎がわき上がる。炎は吉田を包み込み、やがて渦を巻き、心臓のような形を作っていく。
マージョリーが男三人に脅しをかけ、後ろを向かせた。
(……馬鹿?)
ため息をついて、カデシュの心室に浮かぶ吉田を眺める。作業と解説をカムシンに丸投げし、シャンディア自身は理解に専念する。
「ああ、お嬢ちゃん。どうです?」
「はい。……なんでしょう、私がそこに心を向けると、誰かが別のものに変えてしまう…そんな感じです」
「ああ…そうか、坂井悠二君の言ったこと、そのままだったのですか」
気持ち悪そうに、感覚を言葉にする吉田。
「…つまり、教授が街中に張り巡らせた自在式は、私たちが使う力を利用して起動、作用するってこと?」
シャンディアの言葉にカムシンが頷くと、マージョリーが不思議そうに眉をひそめる。
「“存在の力”と自在式が分かれてるっていうの?」
「ああ、あり得ない話ではありません」
自在法の行使は、本来『任意の現象を起こす式の構築』、『式の空間への発現』、『現れた式への“存在の力”の充填』、『起動の命令』という流れに沿って行われる。しかし、マージョリーら自在師はそれらを一瞬で済ませてしまうため、その感覚が理解できないのだ。
「彼は人間とも交流しており、自在式のみの研究を人間と共同で行っていたこともあります。ただ、式自体にはなんの力もないため、誰も注目しなかったのです」
「自前の力の方が、楽に使えるしね」
長い交戦を思い出すカムシンとシャンディアだが、悠二たちは背を向けたまま頭に疑問符を浮かべている。
「簡単に言えば、自在式は譜面、自在法は歌ってことね。封絶のように誰もが知っている名曲はともかく、他人の譜面より自分のものの方が楽でしょう?」
今まで黙っていたルファナティカが噛み砕くと、なるほどと納得して頷いた。
「そういうことで、“探耽求究”が私たちの使う存在の力を勝手に使える自在式を作ってたわけね」
マージョリーがまとめて、一同は仕組みを理解する。
悠二が吉田に訊ね、自在式を組み込まれたそれを発見した。それは、ミサゴ祭り開催のため、あちこちに取り付けられた鳥の飾りだった。
「どうやって、この仕掛けを壊す?気付かれたら、また撹乱されるだけじゃないの?」
シャナの根本的な指摘に、一同は黙り込む。最大の課題が残っていた。
「何個かなら壊せるだろうけど、気付かれたら警戒されてなにもできなくなるんじゃない?」
「うむ、そうでなくとも、時間に余裕がない」
シャナの契約者、アラストールが苦々しく言う。
「駅を丸ごと全部ぶっ飛ばす?」
マージョリーの意見は、悠二が却下する。逆に、悠二の案はカムシンが否定する。そしてカムシンの提案はシャナが切り捨て、結局手詰まりとなる。
(…あれ?そういえば、お嬢さんはともかく、あの二人は……)
ふと疑問を抱いたシャンディアが振り返ると、恐る恐る手が挙がった。
「あ、あのー。発言しても、いいですか?」
(どうして普通でいられるの…?)
佐藤が、マージョリーに促されて意を決したように口を開いた。
「俺……駅の中、入ったんですけど」

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