迷子の心情

シャナ、マージョリーと別れ、坂井悠二の気配を追い、シャンディアらは真名川の河川敷へやってきた。
シャンディアが気配を探るまでもなく、強い意志を顕現させた悠二を探すのは容易いことだった。
今、坂井悠二は、カムシンを、シャンディアを睨みつけている。
(何に対して、そんなにも強い感情を抱いてるの?)
まさか自分たちがその原因であるとは気付かずに、シャンディアは思う。
しばらくの間は睨み合いを続けていたが、埒が明かないと思い、カムシンが口を開いた。
「ああ、実は、あなたに……」
「どうして」
カムシンの言葉が遮られる。フレイムヘイズの存在に慣らされているせいか、カムシンの貫禄や威圧感で従わせるのは難しそうだ。カムシンで無理なら、シャンディアに可能であるはずもない。二人は黙って悠二の続きを待つ。
「…なんで、彼女を巻き込んだんだ」
悩むこと数秒、悠二はそう質問した。
間髪入れず、カムシンが平然と答える。
「調律に必要な、人間の適性者だったからです」
「そういうことじゃない!」
悠二が叫ぶと、フードの下に表情を隠し、カムシンがある言葉を叩き込む。
「ああ、つまり、彼女に本当の姿を見られてしまったんですね」
淡々とした口調に、悠二が息をのむ。しかしカムシンは容赦なく続ける。
「なぜ自分が、“ミステス”だとばれるような真似をしたのか、と言いたいのですか?」
「ふむ、それはお嬢ちゃんの平穏な日々を乱されたための怒りなのか、それとも自分の人間としての体裁を壊されたための怒りなのか、どっちなんじゃね?」
ベヘモットも加わり、くだらない問答を早々に切り上げようとする。
何も言い返せなくなった悠二に、カムシンが畳みかける。
「ああ、しかし、その怒りはお嬢ちゃんの選択への侮辱ですね。我々は、本当のことを……あなたのことを、知ろうとすべきではない、と勧めたのですから」
「ふむ、それでもお嬢ちゃんは自分で良かれと思える方を選んだのじゃから、儂らを非難するのは筋違いというものじゃよ」
「だ、だからって、そんな……」
正論で完全に言い負かされ、それでもすがろうとして、悠二が口を開くと、カムシンよりも先にシャンディアが口を開いた。
「あなたの言い方じゃ、彼女以外の人間ならどうなっても良かった、という風にしか聞こえないよ」
「彼女とあなたに繋がりがあるように、他の人間にも誰かとの繋がりがあるのですよ」
「あなたは、自分に関わりのない人間の繋がりならどうなっても構わない」
「違う!」
悠二が反発すると、シャンディアは冷たい視線で悠二を黙らせる。
「違わない。結局、自分が大事なだけ。そうとしか聞こえない」
そう言い切られ、悠二は何も言えなくなる。
カムシンがシャンディアを伺い、ようやく本題に入る。
「ああ、あなたに協力してほしいことがあるのです」
嫌悪感をむき出しにしながら、悠二はカムシンの言葉を聞く。
「あなたも感じていたでしょうけれど、私たちの敵に対する攻撃は手詰まりなの」
「ふむ、正直、その敵の狙いの欠片も掴めておらん。それで、『弔詞の詠み手』が高く評価しとる、おまえさんの感覚と知恵を拝借に来たというわけじゃ」
ルファナティカとベヘモットの説明に、悠二は怪訝そうな顔になる。カムシンら第三者に、その意味がわかるはずもない。
「……シャナには、会ったのか?」
「会ったわ」
シャンディアが返すと、悠二はますます表情を曇らせた。
「シャナは、何も言ってなかったのか?」
カムシンは、質問の意味を勘で捉え、はっきりと答えた。
「ああ、いえ、何も」
「そう、か…」
悠二があからさまに落胆し、それを見たシャンディアが目を丸くする。カムシンは相変わらず、顔色一つ変えていない。
悠二の中で何かのやりとりがなされた数秒後、力強い瞳が二人にして四人を捉えた。
「まず、その調律ってやつを詳しく説明してくれ」

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