討伐の会議

シャナの言葉にはカムシンが頷いた。
「ああ、さて……おそらくは私たちが調律に使っている自在式を利用しているのでしょう」
「本来は調和の方向へとこの世の流れを組み変えるものなんだけど…」
「どうも、その力の制御を完全に奪われてしまったようですね」
危機感を見せず、カムシンとシャンディアが言う。困ったような表情ではあるけれど、カムシンのように声音に感情が出ないと些か解りづらい。
「しかも“探耽求究”ほどに巨大な気配を持つ王が、この乗っ取りと制御、二つの複雑な作業を私たちに気付かれぬよう行えるとは信じられないわ」
「ふむ、彼奴目が調律に絡んでおかしなマネをしていると噂で聞いてはいたんじゃがな。まさかこのような結果を招いてしまうとは」
シャンディアの契約者であるルファナティカが付加すると、さらにベヘモットが畳みかけた。
しかしシャナはさほど重要ではないと判断した情報を切り捨て、即座に頭を回転させる。
「じゃああなたたちの自在式を破壊すれば、変な企みも防げるし、本人も出てくるんじゃないの。調律ならやり直せばいいんだし」
「うん、できればいいんだけどね……」
シャナの簡潔で端的な提案に、シャンディアが曖昧な笑みを浮かべて言葉を濁す。それを見てマージョリーが怪訝そうな顔をする。
「その自在式はあんたたちが設置したんでしょ?」
それなら壊せばいいと顔に書いてあるマージョリーに、カムシンがいたって冷静に返す。
「ああ、単純な推測です。あの“探耽求究”が、自らの仕掛けの鍵とした血印に易々と手出しをさせるともおもえませんから」
「ふむ、現に、異変が起こってからはカデシュの血印と我らとの同調が解けておる」
「かといって場所を思い出しながら破壊しようとすれば、間違いなく例の自在法に妨害されるだろうし」
ベヘモットやシャンディアの補足に、シャナがやはり単純な提案をする。
「広がってる自在法の範囲から、誰かが潜んでる可能性の高い場所を推測するくらいはできるんでしょう?その付近を捜索して、例の自在法とかで妨害されるかどうか、実際に試せばいい」
「妨害された所があちらさんの心臓部ね」
「隠れてる奴をいぶり出してブチ殺す、基本中の基本だ、ヒヒ」
ルファナティカのまとめに、シャナは強く頷いた。マージョリーの契約者たるマルコシアスも陽気に言ってのける。マージョリーも頷き、いつでも行動できるように態勢を整えた。
「たしかに、ウダウダ話してるよりは動く方が性に合ってるわね。で、婆あ、自在法の中心部、見当はつけられんの?」
「シャンディア」
マージョリーの言葉に、ルファナティカがシャンディア呼ぶ。しかしシャンディアは首を横に振って、婆あ呼ばわりも気にせず口を開いた。
「自在式なんか使わなくてもわかる。人通りの多い、駅前から大通り辺り」
「じゃあ、行く」
シャンディアの説明をきくやいなや、シャナは急かされるように紅蓮の翼で飛び立った。小さなフレイムヘイズを見送り、マージョリーが呆れたようなため息をつく。
「なに焦ってんのかしら。……ま、いいわ。私たちも行くわ」
ぶつぶつと独り言を呟いていたが、マージョリーも群青の炎をまとい、飛び立った。
残されたカムシンとシャンディア、そしてそれぞれの契約者はすぐには行動を起こさない。
「…どうする?」
「“探耽求究”の出方を探るのはあのお二人に任せましょう」
ぽつりとシャンディアが言うと、ルファナティカが返事をする。少し考えてからベヘモットが喋った。
「まず、思い出せる限りのカデシュの血印を探して、本当に妨害があるか、奴が僅かでも尻尾を出すか、試してみる、というのではどうかの」
「ああ、結構、それでいきましょう。『罪科の秤り手』」
「任せて。……『ヴェネツィアの舟』」
頷いたカムシンはシャンディアに声をかける。
シャンディアは右腕を伸ばし、右手で空中から何かを掴む動作をした。一瞬後、その手には露草色の火の粉が溢れる櫂があった。いつの間にか真っ白な木の舟が宙に浮かんでいる。
「ゴンドラ、通ります!」
カムシンが乗ったことを確認すると、シャンディアは声をかけて空を漕いだ。
舟は一瞬で加速すると、まるで波に乗っているように素早く流れ出した。

[*prev] [next#]

[top]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -