その後ヒューズさんはやはり仕事を残していたようで、「今日は泊まりだな」とぼやきながら出ていった。すると自然に客はアルフォンスしか居なくなる。

それにしても、いつも人が少ない。

昼間はbarだと思われて人が少ないのかもしれないし、夜はbarに間違われて人が少ないのかもしれない。とアルフォンスは思考する。だってこんなに珈琲もスコーンも美味しくて、こんなに美人な店員が居るのに客が疎らだなんてありえない!

「なんで人が少ないんだろう…」

思わず口から溢れた言葉に、あ、と手でその口を覆うも失礼なことを言った自覚はあったので。そろりとカウンターの相手を見る。

(…犬みてぇ、)

純粋にそう思った。

初めて逢った時も、こんな、捨てられた犬のような感じだったな。とエドワードは思った。目の前の男はなかなかいい体格をしているし、さっぱりと切った髪や整った顔からはとてもじゃないが「可愛い」なんて言葉は似合わないが、こいつに耳と尻尾があったなら間違いなくしょんぼりと垂れているに違いない。と想像しては笑みが浮かぶ。

「オレから連れ込んだから知らないと思うけど、紹介制で初見お断りだからさ。」
「え、そうだったんですか!」

自分の容姿を過大評価するわけではないが、珈琲の味を置いて自分にアプローチしてくる女性(だけではない)がどれだけこの仕事にプライドを持った自分を傷付けているかわかっていない。だからこその、この店なのだ。

「なんだかすみません、」
「謝ることねぇよっ、純粋に美味しいって言ってくれる人にこそ飲んでほしいんだからさ!」

にかっと悪戯っ子のような笑みに、つられてアルフォンスもわらう。と、風を受けて扉がガタガタと音を立てた。

「「 え 」」

二人は入り口の方を見て、同時に声を漏らした。

真っ白なのだ。

エドワードは入り口の扉に向かい、アルフォンスは携帯を取り出すと交通網を調べにかかる。

「こりゃ、ダメだな」

アルフォンスが交通網を把握して落胆するのと同時にエドワードがトドメをさした。
外では見る限り車はあしをとられ全然進んでいないし、歩道を歩く人の足元は足首ほどまで雪が積もっていた。

「…ですよね…」

どうしよう。と一気に不安が押し寄せる。持ち帰りの仕事もあるのは確かだがこの雪の中でノートパソコンを持ち歩くのは自殺行為だ。

「しゃーねー、お前今日泊まってけ」
「え!そんなご迷惑かけられません!」
「バカやろう!こんな中帰られる方が心配だし何かあったら困るだろ!」

でも、とまだ食い下がるアルフォンスに一睨み。それだけで十分だった。

「……よろしくお願いします」

「よし!」








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