腕の中の"猫"が起きたのはそれから1時間後だった。

結局飽きずにその綺麗な"猫"の寝顔を見ていたアルフォンスは、くぁ。と大きな欠伸と共に聞こえた「いま、なんじ…?」という言葉に、起きたことを悟れば、その未だ眠そうに蕩けた蜂蜜色の瞳を擦る手を制止しながら、甘やかしたい気持ちを抑え、呆れたように答える。

「もう10時です。それと、擦ったら痛みますよ。」
「んー…敬語やめろよー、」

呂律のまわっていない言葉が、一層幼さを引き立てる。それでも年上の相手に敬語を使うのは当たり前であって。そしてこれがアルフォンスの一線なのだ。

これを越えたらどうなるか、わかっているからこそ出来ない。そんなことも知らず気のままに、あまえるような仕草で我が儘を言っては誘う目の前の人物は本当の猫のようで。

生憎と猫が大好きなアルフォンスはそんな気紛れも我が儘も許せてしまう上に甘やかすのだ。

「今日は天気がいいな、」
「あぁ、そうですね。」
「…気持ち良さそうだな。」

そうして今日もまた、こんなぼやきから始まる、自由気ままな猫の休日に付き合わされるのだな。と頭の隅でぼんやりと考えていた。





言葉の通り、陽が当たる窓辺の前に座り込んで気持ちよさげに珈琲を飲んでいるエドワードの隣をちゃっかりキープして。アルフォンスも珈琲を啜る。下のキッチンで煎れたそれはいつもの喫茶店の味で。なんだか不思議な気持ちになる。

初めて会った時から三か月は経つだろうか、短いような、長いような。それでもまさかこんな場所でこの人と、この珈琲を飲む日がくるだなんて、想像もしていなかった。

「あったかいですね。」

「そうだな。」

そんは短い言葉が心地好い。

僕は、あなたと居るといつも心があたたかいです。エドワードさんも僕と居るときこんな気持ちになりますか?


横を見ると珈琲を片手に気持ちよさげに目を細めて、その心地好さを感受するエドワードさん。


なんだかその姿はエドワードさんを見る僕を彷彿させる。

そうか。

エドワードさんは太陽みたいな存在なのかな。あったかくて、心地好くて。誰もが好きになってしまう。無償に愛されるもの。

そう思うと、なんだか安心できた。

自分の欲望を隠す理由が欲しかっただけなのかもしれない。それでも、今の自分を誤魔化すのには困らない十分な理由になったのだから、良しとしよう。










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