暫く日当を満喫してから、お昼を食べに外に出る。朝食を摂らずに珈琲で誤魔化したアルフォンスのお腹が限界を訴えて、ぐぅ、と鳴ったのを笑いながらも「飯にしよう」と言い出しててくれたエドワードは、普段は少食で、とくに物事に集中していると何も食べていなかったりする。

つまりはアルフォンスに合わせているのだ。

けれどそんなことを言ってもきっと「オレに飯を食わせない気か」なんて最もらしい事を言ってくるのだ。普段は言っても食べない癖に。

「昼飯ならイタリアンが食いたいな」

外を歩けば春先の寒さがまとわりつく。そんななかアルフォンスを風避けにして歩いていたエドワードが不意に立ち止まる。目線の先にはお洒落なイタリアンの店。

お昼を少し過ぎた時間にも関わらず外には客が並んでいて、初めて見たが人気なのが伺える。勿論、どうせ食べるなら美味しい方がいいに決まってる。

「なぁ、」
「並びましょうか。」

言葉の先をつけてあげれば、ん。と頷きが返ってくる。これといって特に食べたいものがない、やりたいことがない、そんな時の猫の気紛れは大活躍だ。

ひゅう、と流れる春風から逃げるようにアルフォンスの背中に隠れながら、はぁ。と息を吐く。その寒そうな猫を引き寄せて抱き締めようと中途半端に上がった腕は、誰に見られることなく下げられた。

「あ、エドワードさん。入れるみたいですよ。」
「おー、さみぃから早くはいろうぜ」

少し元気が出たらしいエドワードはそういうと、アルフォンスの背を押すように入店した。
席について店内を見回してみると、なんとも落ち着いた感じでお洒落だ。
ファミレスのように呼び出しボタンがあるわけもなく、この人混みの中、店員達は客の目線とテーブルの上を見ながら迅速に動いている。

「何にすっかなー」

そんな空気を壊すような言葉にエドワードさんの方を見てみれば、頬杖をつきながらテーブルの上に開かれたメニューを見ていた。
行儀が悪いのに、この人がすると様になっているから不思議だ。

「何かと迷ってるんですか?」
「これとこれ。あとミネストローネかな」

指差された先にはベーコンとアスパラのさっぱりしたものと、モッツァレラチーズのミートソース。なるほど。さっぱりとこってりで悩んでいるのか。

「じゃあ、半分こにします?」
「え、お前食いたいやつねぇの?」
「うーん、特にまだ決めてなかったですし、言われると食べてみたくなりません?」

そう言って店員を目で呼ぶと、さっと頼んでしまうものだから、エドワードも何も言わずにその光景を眺める。

こうして正面から見る機会は度々あるが、それでもいつも見とれてしまう。アルフォンスはシンプルな服装が多いが、それが良いのだ。今日もストライプのシャツに下は黒地ですらりとした足が目立つ。男と分別される中で、わりかし細身な自分と違うその筋肉は女性の目に止まるだろう。

ここ三ヶ月程しか共にしていないが、一緒にいて凄く心地好いし、何しろ気が利く。それに比べて自分はがさつだし、態度も口も悪い。何故一緒に居てくれるのか不思議だ。
まあ同族嫌悪という言葉もあるし、自分と正反対のものに惹かれているだけかもしれないが。

そんな事を考えていたら、先に運ばれてきたミネストローネと、アルフォンスが頼んだのかクラムチャウダーが思考を遮った。それぞれ目の前に出されて、さっそくスプーンの先をスープにつける。

「あー、うまい。」

あったまる、と美味しそうに頬張るエドワードを見てからアルフォンスもクラムチャウダーを口に含む。スープにも力を入れているのか凄く美味しい。

次に運ばれてきたパスタに、スープを横に避けて、フォークでくるくる、と皿の端で巻いて口に運ぶ。半分の約束なので、どちらでも良いか、と店員が目の前に置いたアスパラベーコンのパスタを先につつく。

「お、当たりだな!」
「ほんとですね、こっちも美味しいですよ!」

エドワードさんは料理スキルが高い分、パスタの硬さやソースの内容が気になるようで、いつも持ち歩いている革の手帳を取り出すとに何やら書いている。もしかしたらこの味が家で食べられるのも近いかもしれない。

大体半分ぐらいかな?とフォークを置いて顔を上げると、エドワードさんと目が合う。その皿の中身はまだ3分の1程度しか減っていなかった。

「もういいのか?」

けれど待っていたのか、ほい。と皿を寄越そうとしてくるので戸惑うが横のミネストローネが完食されてるあたり、もう入らないのかもしれない。

しょうがないですね、と皿を交換して食べる。こちらも美味しい。エドワードさんも渡したパスタを食べてはミートソースと違いさっぱりとした味に満足しているようだった。

「んー!食った食った!」

店の外に出るなり、ぱんぱんになった。といっても筋肉がほどよくつき引き締まったお腹はそれほど見た目的に変わらないが。満足!と言いたげな程機嫌の良さそうなエドワードさんにこちらも笑みが浮かぶ。

けれども、その足は家と逆方向に向いていた。

まだまだ続く気紛れに、アルフォンスは呆れるどころか楽しげに横を歩いて着いていった。








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