朝起きると蜂蜜色が視界いっぱいに広がる。それから腕にすっぽり収まる温もり。あまりの心地よさにもう一度目を閉じようとしてその温もりに擦り寄ると、もぞり。と温もりが猫のように擦り寄ってきて、すん。と匂いを嗅がれる。

「んー…、あったかいなお前…」
「う、わ!」

思わず肩を押して引き剥がすと猫は目を擦りながら不思議そうにこっちを見ていた。つり目が抑えられていて、余計に中性的な雰囲気を醸し出している。

「おー…おはよ。」
「…オハヨウゴザイマス。」

まだ左腕に残る温もり。これはちょっと、癖になりそうだ…。
腕の中に収まっていた猫はガシガシと頭をかくと伸びを一回に欠伸(あくび)本当の“猫”のようだな、とまじまじと観察してしまう。

「ん?なに?なんかついてる?」
「あ、いや、なんかエドワードさんって猫みたいですね」
「はは!じゃあお前は犬だな!」
「え。」

そんな会話をしながら朝の仕度をする。顔を洗ってから申し訳ないがエドワードさんの歯ブラシを借りる。もちろん念入りに洗って戻す。

( 今度くる時は歯ブラシ買って返そう…。)

それから昨日乾かしたスーツを着て、ネクタイを締めていると、美味しそうな匂いが漂ってきた。また迷惑をかけてしまった。と項垂れる反面その匂いに身体は正直だ。ぐう、とお腹が鳴る。

「はいよ、おまたせ!」
「すいません…」

しょぼんと、耳と尻尾があったら垂れてそうな声と項垂れ具合に朝言ったことを思い出して笑ってしまう。とアルフォンスはきょとんとした後、意味がわかったのか顔を赤くしていた。

( そういうとこが可愛いんだよな。)

「ごちそうさまでした!」
「おう!」

お皿片します、と席を立つアルフォンスに、あ。と気が付いたように席を立つエドワード。アルフォンスは気にせずにお皿をまとめてキッチンで洗い物を始める。

「ふう、」
「お、サンキューな。あとこれ。」

よ。と爪先立ちをすると一気に近くなる距離感。鼻先が首筋につきそうだ。すると、しゅるり、と首からネクタイがとられて、替わりにまたネクタイの感触。ずっと目の前に金色の髪がふよふよと動くそれはまるでひよこみたいだ。

「よし!出来た!」
「え、ええ!?」
「オレが前使ってたやつだけど、昨日のネクタイじゃまずいだろ?」

でもこれ。真っ赤なんですが。

と口に出しそうなところをこらえる。まあ、真っ赤といっても少し暗めだし、触ってみると上質な生地なのがわかる。というかこれさりげなくブランドじゃないか。はあ。と重いため息が零れそうになるのを飲み飲んで笑ってみせると、エドワードさんも満面の笑みになったので、これはこれでよしとしよう。

「じゃあ、いってきます。」

「気を付けてな!」

行ってきます。なんて誰かに言って家をでるなんていつぶりだろうか。
外はまだ寒かったけれど、なんだか身体の中心はほかほかしてて、気分が良い。それが何か、二人ともまだ気づいてはいないけれど。確かに心のどこかが温まっていた。








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