この熱は君のせい

私、濱田咲は今割と最大のピンチに見舞われている。

高校生なのに1人暮らしをしている私は朝目が覚めると体がポカポカしていて、ああこの感じは嫌な予感がするなと熱を測ると予想以上の熱が出ていた。


『39度…?あ、死ぬ』


昨日風呂上がりに素っ裸でアイス食べたからかな、とか、体育の後冷たい風で汗を冷やしたからかなとか結構いろんな心当たりが頭をよぎる。

とりあえずこんなんじゃ学校行けないから学校に連絡しなきゃ。

ぼやける視界のせいでスマホの画面が見辛い。
そして何より体が怠い、頭が痛い、寒い。

なんとか連絡をして布団を被り直すと、一応仲のいいクラスメイト数名に休むことをLINEで伝えた。

あ、そう言えば隣の席の山口くんに借りてた本、今日返す約束してたんだった。
山口くんにも連絡しなきゃ。


【山口くんおはよう!熱出ちゃって今日学校休むから、本返すの少し遅れちゃう。ごめんね】


これでいいか、送信。
画面を閉じようとすると寸前で既読がついて、そのすぐ後に早速返事が返ってきた。
ちょうど時間的に朝のHR前だからスマホいじってたのかな。
その早さにびっくりしつつ返信を見ると


【え、大丈夫!?本はいつでもいいから気にしないで!それよりお大事に!!!】


はあ、優しいなあこの子は。
ありがとうと文字を打って送信。


あ、そうだあと一人送らなきゃいけない人が…とその人のトーク画面に移動すると、スマホの画面が着信画面に切り替わってけたたましく着信音が鳴り響く。うわ、頭痛いこの音。
頭痛から逃げるようにすぐさま応答ボタンを押す。


『もしもし』

「ねえ、なんでまず僕に言わないの」


着信の相手は声色からしてどうやらご立腹の彼氏様。月島蛍だ。


『今送ろうと…てか情報早っ』

「山口が騒いでたから」


ああ、想像ができる。大方、
「ツッキー!!大変!咲ちゃんが!」
「山口うるさい、落ち着きなよ」
という感じのやり取りがあったのだろう。非常に可愛い。
一方の彼氏は


「バカなのに風邪引くんだね」


非っ常に可愛くない。愛しの彼女が学校を休むくらいの熱を出しているというのにこんな時まで憎まれ口叩きやがって…


『そんなこと言うためにわざわざお電話どうも』


蛍の真似して皮肉めいた返事をしてみる。
冗談なはずなのに熱のせいで心が弱っているのか本当に悲しくなってきて、返答を待たず電話を切ってしまった。
ああ、最悪。泣きたい、てか泣きそう。

だってこんな時くらい優しい言葉かけてくれたっていいじゃん、心配してくれたっていいじゃん。
蛍のバカメガネ。もう知らない。

気になっても簡単に取れないようにスマホを地面に落として思いっきり布団をかぶった。
何か通知音が聞こえたけど、知らない。

蛍のひねくれなんていつもの事だしそんなことで怒るような私じゃないのに。
自分の汚点を全部熱のせいにしてまた深い眠りについたのだった。





月島side




もうすぐHRも始まるのに同じクラスの彼女がまだ来ていない。寝坊でもしたのか。

今にもバタバタ走ってきそうな気がして教室の入り口をなんとなく見つめていた。

そんな時


「ツ、ツツ、ツッキー大変!!!咲ちゃんが!!!」

「山口うるさい、朝から何」


背後からの喧しい山口の声に眉を顰めて振り向くと、ワナワナしながら自分のLINEの画面を見せてきた。


「…は?僕にはなんも来てないんだけど」

「えっ、気にするところソコなの!?」


見せられたのは僕の彼女のトーク画面で、熱が出たから休むという旨の内容だった。
一方僕の咲とのLINEは昨夜の「おやすみ」で止まっている。

そのまま呼び出しボタンを押してスマホを耳に当てると1コールで電話に出た。


電話越しでもわかる咲の体調の悪さ。
声が掠れてるし弱々しかった。

それなのに素直に心配の言葉をかけることも出来ず。


「バカなのに風邪引くんだね」


いつもの癖でそんなことを口走ってしまった。
すると、いつもなら軽く受け流す咲が珍しく怒ったように「そんなこと言うためにわざわざお電話どうも」と言ってすぐに通話終了の通知音が耳に響いた。


「ツッキー…さすがに今それは可哀想だよ…」

「…」


山口の言う通りだ。
今のは本当に間違えた。


【ごめん。部活終わったら行くから。】


すぐに送ったけど、放課後まで返信が来ることはおろか既読がつくことすらなかった。

部活中もそのことが気になっていまいち集中できずに時間が過ぎ、ただ体に疲労を与えただけの練習になってしまった。


着替えて誰よりも早く部室を出る。
幸い咲の家は学校から近くにあって、隣にはコンビニもあった。
そこに立ち寄ってスポドリやら軽食を何点か買い咲の部屋のインターホンを鳴らす。


が、反応がない。
まさかぶっ倒れてるとかないよね。
よく考えたら1人暮らしだし、動けない程だとすれば栄養や薬も摂っていないかもしれない。

不安に駆られ、今度は電話で呼び出してみる。
すると5コール目くらいでコール音が止んだ。


『もしもし』

「よかった生きてた。色々買ってきたから開けて」


それだけ伝えるとまた何も言わず電話が切られ、しばらくして玄関の鍵が開けられた音がした。

扉を開けると、寒そうに毛布をかぶったまま出てきた寝間着姿の咲がいた。


『さむい』

「…今朝はごめん」


多分相当な熱があるんだろう。毛布をかぶっているのにそれでもなお寒がっていた。
第一声でさむいと言うくらいには。

今朝の電話に対して謝罪しながら毛布ごと抱きしめる。


『私もごめん、電話切って』


そう言って僕の胸に額を寄せた。
こんな弱々しい咲は初めて見たかもしれない。

なんであんなことを言ってしまったのかと心が痛み、柄にもなく咲を抱きかかえ…所謂お姫様抱っこをしてベッドまで運んだ。


そっとベッドの上に降ろして毛布と掛け布団を肩までかけて整える。


「なんか食べたの?薬は?」

『なにも…空きっ腹に薬は怖くて飲めなかった』

「熱は」

『さっきで38.6』


普段平熱が低い方の咲にとってそんな高熱は大事件だ。
その上食べ物も薬も飲んでいない。
かろうじて水は飲んだらしいけど。

さっき買ってきたスポドリを渡して飲ませる。


「何がいいかわからないから色々買ってきたけど、食欲あるなら少しでも食べた方がいいよ」

『ん…これにする』


ゼリーやらおにぎりやらを見せて選ばせると、咲は迷わず筋子おにぎりを指差した。

腰の辺りに枕が来るようにゆっくり起き上がらせて外袋を剥がしたおにぎりを渡すと、小動物かのような小口でパリパリとかじる。


「あとここに薬と水あるから、食べたらちゃんと飲んで」

『うん、ありがと。部活で疲れてるのにごめん』

「全然」


渡すもの渡せたし、謝れたし
「じゃあまた連絡する」と立ち上がると、学ランの裾をクイっと引っ張られた。


『…ごめん、もう少しだけいてくれないかな…』


片手におにぎりを持って、空いてる手で僕を掴み若干涙目になりながら見つめてくる咲。
こんな時にそういう事されると結構キツい。破壊力がすごい。
流石に襲ったりはしないけど。


「…いいよ、今日は甘やかしてあげる」


そう言って咲の額にキスをして優しく頭を撫でると、目の前の恋人の顔がさらに赤くなった。


『っ、熱上がった…やっぱ帰って…』

「やっぱはナシ」


ベッドサイドに腰掛けてゆでダコみたいな顔でおにぎりを頬張る咲を見つめた。

「そんな見ないでよ」と言いつつしっかり完食して、薬を水で流し込む。


『薬飲めたからご褒美ちょうだい』

「何ソレ、相変わらずお子様だね。」

『甘やかしてくれるんでしょ?』


そう言われて何も言い返せず。
「何が欲しいの」と聞けば「抱き枕」と言われたけど当然そんなもの持ち合わせてはいない。


「抱き枕ってどこに売ってるの」

『ここにあるじゃん』


何のことかと思えば咲は僕の腕を掴んで自分の隣に引き寄せた。


「は…僕?」

『それしかないでしょ、頭いいくせに鈍いね』


僕に似てきたのか、そんな皮肉を言いながらその名の通り僕を抱き枕にし始めた。
咲の体はとてつもなく熱くて、このまま抱き締められていたら僕の方が汗かいてきそう。

まあでも、こんな時くらい好きなようにさせてやらなきゃ禊にならない。


『このまま泊まってくれたら治るのになあ』


僕の胸の中で小さく呟く咲。
僕がいたからって治るわけないけど、1人でいるのが寂しい寝込み独特の感情は何となくわかる。


「絶対移さないでよ」

『それは知らないです』


結局今日は泊まりがけで抱き枕要員と言う名の看病をすることにした。


『襲ったりしないでね』

「………………。しないケド」

『何その間…信用できない』


さすがに病人を襲うほど飢えてはいない、と思う。
いつもだったらこんな状態なら今頃致してるところだけど。


「しないよ、今は」

『今は?』

「…治ったら覚悟しといて」

『うん、変態』

「咲には言われたくない」

『私は蛍ほど変態じゃありません』


なんて生意気なことを言われ治ったら泣くほどいじめてやろうと今決めた。
だから、


「早く治してよ」


そう言って軽くキスをすると、咲はまた赤面して「治させる気ないでしょ」と顔を伏せた。

反応がいちいち可愛すぎるあたり、咲こそ僕に我慢させる気があるのか疑問に思う。


明日になったらほんとに治ってたりしないかななんて無謀なことを考えながら2人で眠りについた。









翌朝
(蛍、朝)
(……ん)
(治った。36.5)
(…何、朝から誘ってんの)
(うるさい)



fin

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