眠り姫

隣の席の濱田はいつも眠そうで。
朝誰よりも早く学校に来てHRが始まるまでずっと机に突っ伏して眠っている。
家でギリギリまで寝るよりも学校で寝た方が確実に遅刻しないからって、いつだか言ってたっけ。

午前の授業は頑張って起きようと努力しているようだけど、昼休み後の授業はいつも限界突破して突っ伏す余裕もなく座ったまま眠りにつく。
たまに頭が後ろに行って驚いて起きたりする様子を見るのが最近のささやかな楽しみでもあった。

そんな濱田が今日は様子がおかしい。

朝、教室に着くと隣の席に濱田が居なくて、休みかなと思えばHRギリギリに教室に滑り込んできた。


『つっ、きー…おはよ…っ』

「珍しいね、ついに寝坊でもした?」


息を切らせながら席に着く濱田に尋ねる。
喋るのも億劫であろうに律儀に挨拶するところを見て、全力ダッシュした後の山口みたいだなとか思いながら。


『なんか、っ…、目が覚めてくれなくて』

「へえ、君でもそんな事あるんだ」


まあ当然か、教室で寝るために早起きするなんてもともと変な話だし。


その後HRが終わって午前の全ての授業が終わるまで、濱田はずっとうとうとしていた。たまに堕ちていたけど。

いつもは午前は持ち堪えるのに、相当眠いらしい。毎日何時まで夜更かししてるんだか。


昼休みに入ると、濱田はいつも昼食を共にする友達に何かを告げ、教室を出て行った。

それから休みが終わっても教室に戻って来る様子はなくて、いつもと違う風景に違和感を覚える。

どっかで倒れて寝てたりしないよね。
…とか、無意識に濱田を気にかけている自分が一番おかしく思った。


結局最後の授業が終わっても濱田は戻らなかった。
荷物はあるから帰っては居ないはず。

帰りのHR後、濱田のカバンを持って保健室に行ってみると保健医は不在で、3つ並ぶベッドの一番奥だけカーテンがかかっていた。
きっと濱田はそこで寝てるんだろう。


シャッとカーテンを開けると、そこには予想通りぐっすり眠る濱田がいた。


「ねえ」

『………』


…声をかけても起きる様子はない。
もう学校終わったんだから後は家で寝た方がいいんじゃないのか。

しかもこんなとこで一人で寝てたら誰に何されるかわかんないし。

気持ちよさそうに眠る濱田の鼻を摘むと、さすがに苦しかったのか目を覚ました。


『ぶはっ、な、何!?』

「何って、もう放課後だから起こしに来てあげたんデショ」

『あ、え…?もうそんな時間?てか何でツッキー?』


まだ頭が起きていないのか、突然現れた僕と過ぎた時間に若干混乱している。


「早く帰って家で寝たら?」

『んーでもまだ無理…起きれない』


まだ寝れる、と言って再び目を閉じる濱田。
いや、せっかく起こしたのにまた寝られたら困るし。


「君さ、何でそんな眠いの」

『ええ…私が聞きたい』


ベッド横の椅子に座って聞くと、逆に聞かれた。
薄く目を開けて横目に僕を捉える。


『夜も9時には寝てるのに一日中眠くて、私病気なのかな〜』


夜更かしどころか夜9時って。
予想外の返答に若干驚いた。
濱田は眠そうにゆっくり瞬きをしながら顔を僕の方に向けた。


『ねえ、私がこのまま目を覚まさなかったらどうする?』

「は?そんな事あるわけないでしょ」

『もしもの話だよ〜眠り姫みたいじゃん』


恥ずかしげもなく、何の深い意味もなく自分を姫に例える濱田。
まあ他クラスの男子に噂されるくらいには顔は整ってるけど。


『ツッキーならどうやってお姫様を起こす?』


意外にも興味津々な顔で聞いてくるから答えなかったら文句言われた挙句寝られそう。

お姫様の起こし方なんて知らないよ。


そう思ったけど、

気づいたら濱田にキスしていた。


『…え…??』


離れると口を半開きにして固まる濱田と目が合う。


「こうやって起こすんでしょ、普通」

『つ、つつツッキーにちゅーされた…!』


状況を理解したのか一気に顔を赤く染めて掛け布団に包まる。
濱田もこんな顔したりするんだ。


「何してるの、さっさと帰るよ」


そう言う僕も少なからず顔に熱を感じる。
濱田が布団から顔を出す前に去ってしまおうと思い椅子から立ち上がると、


『もう一回してくれたら、起きる』


文句でも言われると思ったら正反対の言葉が聞こえ、振り向くと濱田は布団から顔を少し出してこちらを見つめていた。


二度も強請るなんて強欲なお姫様だ。


望み通り濱田にキスをすると、「姫様復活!」なんて言って起き上がった。それと同時に


『ツッキー、私の王子様になってよ』


ツッキーにキスされるとすごい目が覚める、
なんて続けて言われたけど、これは告白と受け取っていいものなのか。


まあ、僕も好きでもない奴にキスするわけもなくて。



まったく厄介な姫を貰ってしまった。








(後日)

『ツッキー、寝ちゃう…キスして…』
「教室でそういうこと言うのやめてくれない?ここでは無理」
『じゃあどっかでして〜』
「ただキスしてほしいだけならそう言いなよ」
『…バレてた』


fin

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