「まあ、俺もさすがにー…この状況で一緒に風呂に入れなんて言わないよ」


なんだか埃っぽい臭いのするその部屋は、俺を精神的に酷く疲れさせた。埃っぽいのはシズちゃんの部屋も同じだが、ベッドの横にコンドームだったりローションだったりの「やるため」の物が置いてあり、その部屋に一緒にいるのがあろうことか世界で一番嫌いな人間なんだから、精神的にダメージを食らわない訳が無い。
パソコンをダブルベッドに放り投げ、俺は早々に風呂に入ろう、と蝶ネクタイとベストを脱ぎ捨てた。
シズちゃんは忌々しそうにちっ、と舌打ちし、パソコンの横にどかりと腰を落とす。


「んな事言ってたら手前の頭をテレビにおもいっきりぶつけてやるよ」

「うわぁこっわあーい。まあ今のシズちゃんにそんな事ができるとは思わないけど。…じゃあ俺風呂入ってくるから」


そう吐き捨ててすたすたと風呂場へ歩いていくと、シズちゃんが俺の腕をがしりと掴んだ。
がしり、というと力がかかっているように思えるが、実際には掴み方が「がしり」なのであり、あまり俺を引き止める力は無かった。シズちゃんはベッドから転げ落ち、その転げ落ちた体制のまま、シズちゃんは、「一応だ、一応聞く」と切り出した。


「…あの、こっから完璧に透けてるアレは何だ」

「何って…風呂でしょ」

「何で風呂が透けてんだ」

「何でって言われても、そういうものなの。もちろん透けてない所もたくさんあるけど。なんか一般的にガラス張りお風呂と回転ベッド〜みたいなのがラブホのイメージになってる所あるじゃない?回転ベッドなんて最近じゃあまり見ないけど、都内でもある所割と知ってるよ。情報売ろうか」

「黙れ。…お前が風呂に入ってるときに俺は何をしてりゃいいんだ」


黙れと言いながらも質問を浴びせるシズちゃんの頬は少し赤らんでいる。ああ緊張してるのか童貞くん。


「…テレビでも見てたら?タダでAV見れるよ良かったねー」


鼻で笑いながら風呂へと一歩踏み出すが、シズちゃんはまだ腕を離さない。
なんだよしつこいな。


「あのさー、離してくんないかな。どうせ俺達もう一緒に風呂入った事あるじゃん。今更そんな嫌がること無いと思うんだけど」

「嫌なもんは嫌なんだよ、何で俺の身体を洗ってる所を見なくちゃなんねえんだよ」

「もーうざいなー見たくないなら見なきゃいいじゃん」


力ずくでその腕を振り切って、脱衣場に入る。脱衣場までガラス張りのくせにカーテンも無いとは、女の子によっては嫌がるだろうな。
そんな事を考えながらぽいぽいとズボンやらを脱ぎ捨てて浴室に入る。浴槽にお湯を張りながらシャワーのコックをひねり、頭から水を浴びる。ああ気持ちいい。シャンプーにリンス、身体を洗って洗顔。昨日のシズちゃんのずさんな洗い方を思い出して丹念に洗う。
あんな洗い方をしている上に金髪なんだから、シズちゃんは将来絶対ハゲる。高校時代に、俺が前髪を短く切ったときに「ハゲてんぞ」とからかったことを一生後悔するがいい。

そうこうしている間に浴槽にお湯が張ったので、ちゃぷんと浴槽に浸かって身体を温める。
お風呂は好きだ。疲れを癒してくれる。身体の芯まで暖まったので、備え付けのバスタオルで身体を拭いてバスローブを纏い脱衣場を出ると、シズちゃんは正座して後ろを向いていた。どうせ見えるのは自分の身体のくせに律儀だなあ。


「自分の身体なんだからそんなに気にする事無いのに」

「黙れ」


言いながら風呂に向かうシズちゃんに
「頭は最低でも4分洗う事。爪を立てたり、髪を擦りあわせないで。あとリンスはなるべく地肌につかないようにしてね。あんまり適当にやってるようなら怒るから。こっちから丸見えなんだからちゃんとやりなよ?今の俺の腕力、わかるよね」
と言って、俺は久しぶりにパソコンの電源を入れた。










チャットルームの夜/矢霧波江の場合


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