私は折原臨也が好きではない。


折原臨也は嫌な人間だと思う。
まず、性格が悪い。
これでもかというほどにひねくれているし、人を小馬鹿にしたような態度をとるくせに、堂々と「俺は人間を愛している」などと公言するものだからいっそうたちが悪い。…折原臨也の性格の悪さについては語り尽くせそうに無いので、この辺りでやめておこう。
性格が悪いクセに、外見だけは無駄に良いところも、折原臨也の嫌な所としてあげられるだろう。
詳しくは知らないが、明らかに日系の顔立ちなのに瞳が赤いというところもそうだ。ろくに外に出ないからであろうが、その肌の白さと相まって美しい、などとこの間依頼に来た中年の男が褒めちぎっていた記憶がある。ちなみに私はちっとも魅力的に感じた事はない。
折原臨也の特徴として、もう一つあげるなら頭がいいということだろうか。
悪知恵も含めて、頭がいいのだ。よくもそれだけ思い付く、と感心してしまうほどに。
ペラペラと思いついたように喋る印象を持つ彼だが、その言葉がどれだけ人を苛立たせようと、それは彼なりに思案して出したであろう言葉であって、それによって琴線に触れたのなら、それは彼が触れさせんとしたからなのであり、決して彼の失言ではないのである。


しかし、私がどれだけ折原臨也の嫌な所をあげ、それを彼に伝えようとも彼は変わらず、ニヤリと笑って「俺は人間が好き」と、そう言うのだろう。その人間には私も含まれているらしい。全く不快でしかならない。



そして、その頭の良くて性格の悪い折原臨也が狂ってしまった、という噂を耳にした。

仮にも情報屋で勤めているのだ。噂とは言えども、入ってくる情報は信憑性を増す。
そういえば池袋に行ったっきり、「あれやって、これもよろしく」のような文面のメールも届かず、もう半日経つというのに音沙汰も無いのは珍しい。
朝出勤してきても、広い窓を背に受けるゆったりとしたチェアーにはその主の姿は無かった。


「…珍しいわね」


机の上に散らばった書類も昨日のままだったので、おそらく昨日私が立ち去ってから今まで誰も訪れていないのだろう。
折原臨也は散らかっている状態を好まない。だから敢えて散らかした状態で帰ったのだが、結局彼の目に止まることの無かったその行動は無駄だったようだ。
自分が散らかしたのだから、一番効率的な片付け方も分かる。
散らかった書類を手早くまとめて一ヶ所にしまった、その時。


携帯のバイブが鳴った。
画面に映し出された文字は「折原臨也」。私は通話ボタンを押した。


『波江、あのさ』


初めに感じたのは、違和感だった。
彼の声はけして低いものではない。どちらかというと高い方に分類されるのだろう。しかし受話器を通して響くそれはかなり低いものだった。
帰らなかった理由というのは誰かに危害を加えられたからなのか。
そう質問するが、曖昧な返事で流される。


『波江って研究者だよね』
「元、ね。どうかしたの?」
『あのさ…もし俺と誰かの中身が入れ替わっちゃったら…直せるかな?』


バカか。

そんな仮定の話などありえない。彼にも言われたことがあるし、自分でも自覚しているが、私は合理的な人間だ。中身が入れ替わる、など、解剖して臓器を入れ替えるという意味でもなければありえるわけがない。


「おかしいのは頭だったようね。ああ、元からかしら」


きっと、何かあって、誰かに構って欲しいのだろう。受話器の向こうで何やら焦った声が聞こえたような気もしたが、二、三適当に会話をして一方的に電話を切った。


その後、彼から一通のメールが届いた。
「暫く平和島静雄の部屋で暮らすから翌朝までにパソコン一式運び込んでおいて」








そして翌朝、私は平和島静雄の家にパソコンを運んだ。そこには確かに折原臨也が居たのだが、様子がおかしかった。
なんだかぼーっとしているし、反応も薄い。いつもはペラペラとせわしなく話す口もあまり動かない。声は確かに折原臨也のものだったが、私の中の違和感は大きくなった。


平和島静雄の家から出てしばらくしてから、違和感を確かめようと、臨也の携帯に電話をかける。ツーコールの後、彼は電話に出た。そして彼の、つい先ほどの事も覚えていないような口振りに私の中の疑問は確信に変わった。




私は折原臨也が好きではない。だが、恩は感じている。

ネブラから追われる事になった私を雇ってくれたのは彼だ。だからせめて、彼の頭がおかしくなったのならば、彼が一番大切にしているであろうプライドくらいは守ってやろうじゃないか。


「私が殺してあげるわ」



私は折原臨也の持つ様々なコネクションを使い、彼を殺してやることに決めた。







続き


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