男とやったことなど、もちろんだが一度もない。
とりあえず服を脱がせてみると、指先でさえ手袋に包まれて露出していない彼の身体はまるで日に当たったことのないようなきめ細やかで白い肌だった。さて自分も下半身だけ身に付けていた夜着を脱いでみたがどこから始めたら良いのかと戸惑っている悟空に、ベジータは身体全体を擦りつけるようにしてまたキスをする。
男は初めてなんだろ、とささやく彼に、悟空はゆっくりと頷く。
でもなんだか、男とのセックスという言葉面だけで捉えていたときは「絶対にムリだ!」と思っていたはずなのに、目の前でぺろりと唇を舐めるベジータを見ているとまんざら無理でもないような気がしていた。
キスだって、今のが二回目だ。そういえば全然、気持ち悪くない。否、むしろ、その小さな口から覗く赤い舌に頭がしびれていくような感じがする。

「なぁ、ベジータ、もっとキスして」
「少しはお前からしやがれ」
「オラからして、イヤじゃねえ?」
「どんな理屈だそれは」

馬鹿にしたように笑う彼の首に手を回して、悟空は少し身体を起こすようにベジータと唇を合わせる。

「…ん…」

何でこんなことになったんだろう。
頭の隅に残った理性の欠片が、あのベジータとベッドの上でもつれあっていることに警告を発している。
でも、ベジ―タが。
(あのベジータが、オラに抱きついてきたんだ。)
父親と一緒にいることがなかったという彼。
このSAIYAという歪んだ空間の中で、ずっと一人きりで暮らしてきたのだろうか。
今の彼は、男と寝ることに何の気遅れも無いようだった。間違いなく、今まで多くの男たちとヤってきたということだろう。

人肌の暖かみを知らずに育った彼は、無意識のうちにそれを求めていたのかもしれない。

「ベジータ…」

ベジータと闘うのは好きだった。誰よりも楽しく、何も考えずに戦闘だけに集中することができた。
手加減の必要もなくいつも全力で戦えたし、ベジータと戦えるなら他に何も必要ないと思えるほどだった。
そういう意味で、かけがえのない存在であったことは間違いない。
だが、性欲の対象として見た事は今までなかった。

(なあ…おめぇは、オラのことどう思ってんだ?)

もし、ベジータが人肌恋しい時にその隙間を埋めるためだけにとっかえひっかえされる多くの奴らと同じとみられているなら、悟空はこんなことはしたくなかった。
それなら別な男のところに行けばいいだろう。
そういうことをしたいから、ベジータと一緒にいるわけではない。

「なあベジータ、…おめえ、…」
「何だ」
「何で、オラの部屋に来たんだ?」
「!」

それまで積極的に悟空に淫らな誘いをかけていたベジータが、一変して顔を真っ赤に紅潮させた。
そういえば、ここに来た時、(何故か)烈火のごとく怒りながら「責任とりやがれ!」と叫んでいたのを思い出す。

「……何…ッ、今さら、そんなこと……」
「だって、オラ、まだ何も聞いてねえ。いきなり押し倒されっちまって、それじゃあ分かんねえ」
「…………」

ベジータは静かに上体を悟空から離し、ベッドの上に座ってそのまま俯いてしまう。
ああ、いつものベジータだ。言葉にするのが苦手で、プライドが高くて、素直じゃなくて。

「……」
「どうしても、言いたくなかったら…いいぞ。」

悟空も身体を起こし、ベジータに向けて微笑する。
小さな子どもに話すように優しく言って、そっとその小さな体を抱きよせる。
簡単に腕の中に収まってしまうベジータは、顔が見えない方が落ち着くらしい。

「……お前が……」
「うん?」

ぽんぽんと背中を撫でると、ベジータは「お前が」と繰り返した。

「オラが、何かしたか?」
「…ッお前が、俺にこうやってから……!俺は、お前のことばっかり……!!」

ぎゅううと悟空にしがみつくベジータに、胸がしめつけられる。
ああ、なんだろう、こういう気持ちを何て言うんだったか。

最初に、悟空のことなんて人とも思わないような態度でふんぞり返っていた彼からは到底想像できない。
分かりにくいベジータの話し方でも、そういえばこの前手合わせをしたときにこれと同じようなことをしたよな、と思い出す。
そうか、それからずっと忘れられなかったんだ。
ベジータの広い額に唇を押し付けると、悟空はにっこり笑った。

「じゃあ、続きやっか!」

体勢を逆転させ、男二人では到底寝られない狭いシングルベッドにベジータを寝かせ上に覆いかぶさる。

「おめぇがイヤなら、オラは別にやんなくてもいいんだけど」

こちらを見上げる黒い瞳を捉えて真正面から言うと、フンと鼻を鳴らしてそっぽを向かれてしまった。
(やりたいって、ことかなあ……)
その綺麗な肌に吸いつき、鎖骨から首筋をゆっくりと舐めていく。厚い筋肉を包むしっとりとした肌は手触りがいい。
胸の突起にキスをすると、彼が少し息を詰めたので、悟空は舐めながら軽く歯を立ててみる。

「…ッ!」

ひきつらせた彼の体は柔らかくはないが、こんな風に触れさせることのなさそうなベジータが背中に手を回して黙っているという時点で十分にその価値があるような気がした。
こんなに小さい乳首でも感じるのかな、と思いながらちゅうちゅう吸い付いていると、「しつこい!」と頭を叩かれた。
悟空は顔を上げて、そういえば、と大切なことを思い出したように首を傾げた。
その表情を見て、なんとなくベジータは嫌な予感がする。

「なあ……聞こうと思ってたんだけど、どこに入れんだ?」

女とも経験があるかどうか怪しい悟空が男同士のやり方なんて知るはずもない。ムードもへったくれもなく、無邪気に尋ねてきた。
ベジータは顔をひきつらせる。確かにさきほど、男同士は初めてだと頷いていた、だが随分抵抗なく襲いかかってきたのでてっきりそのくらいの知識があるのではないかと思っていたのだ。

「ちっ…貴様、そんなことも知らんでやってたのか!」
「それで、オラできればおめぇに入れたいんだけど……」
「…注文の多い野郎だ…!」

顔が一気に熱くなる。
ベジータはもうずいぶん多くの男と寝たし、だからそんなのは今更で、当然のはずなのに。
相手が何も知らないから妙にやりづらいのかもしれない。

「…ッ、何で貴様はそんなことも知らないんだっ!」
「だ、だってよう…オラ、初めてだし……」
「チッ……」

初めてって、まさか本当に初めてという意味じゃないだろうな。
些か不安になりながらも、逆に尋ねると知りたくもない事実を知ることになりそうで、ベジータは疑わしげに睨むだけにとどめた。
右手の中指を口に含むと、妙に震える指で、自分の後ろの孔に第一関節まで沈める。やりたくて仕方のない血走った男の目なら慣れているが、無垢な瞳でじっとそこを見つめられるのは、これまでにない恥だった。

「ここを使うんだクソッタレ…ッ!」
「ええっ、痛いんじゃねぇか?!」
「いきなり入れろとは誰も言ってねぇ!解すんだよっ…っ!」

しかし、少し指を舐めたくらいでは到底滑りがよくなるはずもない。もっとしっかり舐めておくんだったと後悔するが、興味津々に動きを見られている手前、どうにも自由にできない。

「つ……っ、そんなに見るなクソッタレ!」
「………ベジータ…」

そのとき、悟空は突然ベジータの両足を抱えあげた。

「?!」

思わず指を抜いてしまったベジータの、まだほとんど解れていないそこを悟空は目の前まで持っていってしげしげと観察している。しかも彼は相変わらず無邪気な顔のままでいるものだから始末に負えない。羞恥でどうにかなりそうだった。

「カ…カカロット……っ?!」
「指じゃ、痛そうだ」
「な、な…なにす……っ!」

あろうことか、悟空はそこを犬のようにぺろぺろ舐め出した。尖らせた舌の先をぬるりと奥に入れ、くちょくちゅと淫らな音がする。

「ひもひいい?」

悟空が舐めながら尋ねると、そこがひくひくと痙攣して、びくりとベジータの足先がひきつる。

「ん、っく……」

悟空が少し顔を離して見てみれば、その顔は耳まで真っ赤になっていて、その小さな唇は半開きになって小さく喘いでいた。唾液を送り込んで優しく舐めると、ぴくぴくとベジータの前も嬉しそうな反応を見せている。
(男でもこんなとこ舐められっと、気持ちいんだな…)
とろとろに解けてきた孔は、悟空の舌を簡単に飲み込み、ときどき収縮を繰り返している。
少し熱く感じるそこは狭そうだが、入れたときの快感を想像するとぞくりと身体が震える。

「なあ、そろそろいいか?」

持ち上げていた身体をゆっくりと下ろしてやり、ベジータがしたように自分の指先を舐めてからそこに触れると、つぷんと悟空の中指が一気に奥まで入る。
直後、ベジータはびくりと細い腰を浮かせた。

「痛くねぇ…?」

薬指と人差し指も一緒に入れ、ぐちゅぐちゅと掻き回してやると、彼の表情が快楽に溶けるのが分かる。
悟空は、知らずごくりと生唾を飲んだ。自分の下半身が痛いほど反応しているのを感じる。

「あ、ああ、あっ…も、っ…もう、いいから早く…!」
「…うん」

悟空は素直に頷いた。
指を抜いて、そそりたった陰茎の先をベジータに当てる。
ついにここまで来てしまった。
今更後戻りできないし、気の強そうな瞳が快感に潤んでいるのを見るとじんじんと脳髄がとろけていくような気がした。

「痛かったら、言えよ?…な?」

悟空が、汗の浮いた広い額にキスをする。
ベジータは、荒い息をつきながら部屋の明かりで逆光になる悟空の顔をぼんやりと見上げた。
少し余裕がなさそうに微笑む悟空は妙に雄を感じさせる。
汗ばんだ大きな手のひらで優しく髪を撫でられ、静かに瞼を閉じた。
こいつ、さっきまであんなにバカで無知な奴だったのに、この期に及んで何でこんなに――

「く、くぁ…アア……!」

直後、ゆっくりと体を押し広げられる感覚に苦鳴を漏らす。

「…でぇじょうぶ…か…?」
「……っ」

ベジータは、ぐいと悟空の首に両手を巻き付けて唇を塞いだ。
腰を進める悟空の動きは少々性急で、でもこれ以上面倒な説明をする余裕はなかった。自分の悲鳴をキスで消しながら、身を裂かれるような痛みに耐える。

「んぐ、んッ……」

熱い肉棒を受け入れ繋がっていく感覚は、局部の痛みと内臓を押し上げられる苦しみでどちらかというとあまり気持ちよくはない。
ある意味、さっさと終わらせてくれるほうがちょうどよかった。
意外に大きいな、と思いながら居ると、悟空が「入ったぞ…」と囁いた。
互いの汗で滑る腕を悟空の広い背に回し、ベジータは短く息をつきながら、濡れた唇の端を引き上げた。

「動けよ……」
「痛くねぇのか?」
「…やってるうちに悦くなる……」

悟空は、少し萎えているベジータの陰茎を見て気遣わしげに見つめた。
しかし、どくんどくんと脈打つ悟空の雄は、ベジータのきつい体内で更なる刺激を望んでいる。

「……っ、」

人の体内はこんなに熱くて気持ちの良いものなんて知らなかった。
悟空はベジータの脇腹の横に片手をついて、身体に綺麗についた筋肉とは裏腹に細い腰を支えてやりながら、ゆっくりと腰を動かし始める。

「はぁ、は、あ…、あ」

吐息とともに細い喘ぎを漏らすベジータが縋りついてくるのを、どうして良いか分からない。
腰を揺らしながら、どうやったらベジータが気持ちいいのだろうとそればかり考えていた。
あんなところに、こんな太いものを突っ込まれて痛くないはずがないのだ。
顔を見れば、頬には涙が伝っている。
(わりぃ、ベジータ……そんなに痛ぇんだったら、無理にやらなくてよかったのに)
大体自分は経験がないのだ。上手にできるはずがない。
せめて、挿れてしまう前にもっとベジータにいろいろ聞いておけばよかった。

「はぁ…ッ、カカロッ…、何考えてやがる…?」
「………ベジータ…」

少し動きが止まりかけたので、ベジータがうっすらと目を開けて視線を交わらせる。

「遠慮なんて、してんじゃ…ねぇぜ…?もっと動、けよ…!足りねぇ…っ」
「…遠慮は、してねぇよ……」

おめぇのこと、考えてたんだ。
悟空は少し緩急をつけて、下側に擦りつけてみる。だんだん自身のカウパーでさらに滑りがよくなり、自分はかなり気持ちよかった。でも、それだけじゃだめだ。
ぎりぎりまで引き抜いて強めに、突き入れてみる。
パンパンと肉がぶつかる音がして、なんだかセックスをしているという現実を叩きつけられるようだ。

「ッあぁ…!」

喉を仰け反らせたベジータの声に、明らかに艶が混じった。
どこかイイところをかすったらしい。

「ベジータ…、どこ、欲しい?」
「…う、ぇ…もう、ちょっと上…ッ」
「上?」

悟空はドキドキして破裂しそうな心臓をおさえつけ、上を意識して突きあげる。

「ッア……、あっ!あ、カカッ…、いい…っ……!」

ベジータの体が面白いように跳ねた。
きもちいいと全身で言っているベジータは自らも腰を振って応えている。
ベジータが気持ちいいと分かると、悟空も嬉しい。

「あ、あぁ…カカぁ…、っ、前も触れ…ッ」
「…前?……」

前と言われ何のことか一瞬解らなかったが、そうか、と腰の動きを速めながら、また硬度を取り戻していた彼の陰茎に触れる。
ゆっくり、一緒に握って擦ると、ベジータは一層高い声をあげた。

「ン…あ、あぁ…!」

ぬるぬるに濡れたベジータの陰茎は熱くてびくびく脈打っている。

「ベジータ、…イキたい、んか…っ…?」

悟空が低い声でそう尋ねると、ベジータは唇を引き結んでガクガクと頷く。
ああ、可愛いと思った。
自分の愛撫で、自分の動きで感じていっぱいいっぱいになっているベジータは、何よりも色っぽくて可愛い。
こんな顔を今まで他の男にも見せてきたというのだろうか。
(もう、オラ以外とやらないで欲しいな……)
ぎりぎりまで引き抜いて奥まで突き上げ、同時にベジータの亀頭の先に軽く爪を立てて引っ掻く。

「ッあああ……!!」
「…っ!」

ベジータがイッた瞬間、突然そこはきつく悟空を締め付けた。予想だにしなかった快感に、悟空も一気に絶頂を迎える。
ベジータの精液が腹の間に飛び散り、自分の精液がどくどくと彼の中に注ぎ込まれたのを感じながら、ゆっくりと力を抜く。
はぁはぁと息をつきながら、びくん、と痙攣して弛緩していく体を、悟空は優しく抱き締めた。
そして、耳元で呟く。

「なぁ……もいっかい……」
「き、貴様まだやるのか…っん…!」

唇を合わせれば、なんだかもうきっと何回やっても足りないんじゃないかとすら思えてきて、悟空は苦笑した。






ぜんぶ、聞こえてるんですけど…

(仕事を終わって、疲れて帰ってきたのに…)
結ばれてしまった幸せな二人の隣の部屋では、両耳を塞ぎながらうなだれるラディッツの姿があった。





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