別れの理由があった | ナノ
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何となく、口寂しいと感じた。口に何かないと落ち着かないような、あの感じ。
普段だったら飴やガムなんかを食べるところだけどわざわざ部屋に取りに行くのも面倒だ。我慢できないことはない、と結論を出して再び画面に向かった。
しかし、無意識とは恐ろしいもので左手はキーボードをタッチしている一方で右手はいつのまにか少し荒れ気味の唇をカリカリといじっていた。


「あー!こら、フェルト!」


ぐ、と細い指に右手首を掴まれて、勢いのままくるりと半回転したそこには、年上の同僚が立っていた。


「クリス」

「ダメじゃない、フェルト。唇荒れてるのにいじってたら悪化しちゃうよ?ちゃんとリップ塗らなきゃ」


だいたいフェルトはいろんなことに無頓着過ぎるよ、と軽く説教を始めたクリスのよく動く唇は確かにつやつやで、私のと違って触ったら気持ちよさそうで。


「え、」


す、と手をのばせばやわらかくて、もっと触ってみたいと思って、それならどうすればいいか、っていうのを元から知ってたみたいに手が横にずれて、開いたやわらかい唇にそのままくちづけた。


「…あ、」


一瞬触れてくず離した唇はすぐに傷ついてしまいそうで、私は荒れたままの状態で放置していたことを後悔した。そうしてクリスを見ると、真ん丸に見開かれたアンバーと目があって、ふと我にかえった。


「……っ!」


あわてて立ち上がって脇目もふらずブリッジを出る。
部屋に戻ってすぐにロックをかけて、ずるずると床に座り込んだ。
どうしようどうしようどうしよう。なんであんなことしたんだろう、よくわからない。誰かに聞いてみたいけどこんなこと誰にも聞けないし、ああでもこのままじゃいけないことくらいわかる。このままだったら、
クリスに嫌われる。


「……どうしよう」


何も考えたくないと拒絶する脳を無理矢理働かせて考える。ふと、ロックオンが以前刹那に言っていたことを思い出した。

『悪いことをしたらごめんなさい、だぞ』


「…ごめんな、さい」


ああそうか、私は悪いことをしたのかな。よくわからない。でもキスっていうのは好きな人とするらしい。だったら私がやったことは悪いことだ。
もちろんクリスだって、自惚れじゃなく私のことが好きだと思う。だけど私が好きって思うほどクリスは私のことが好きじゃない。


「好きじゃ、ない」


言い聞かせるように呟いて、胸のいたみは無視して立ち上がる。

そう、クリスは私が好きじゃない。いくら私がクリスを好きでも、クリスはそうじゃないのだ。だから、これは言ってはいけない。言ったら、だめなの。



最初からわかってたはずなのに、
(涙が止まらないのはなぜ)




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