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そわそわ×2
 

 赤と黄色で彩られたファーストフード店に入れば、こちらに背を向けた金茶色のおかっぱ頭はすぐに見つかった。まじかよ、というのが正直なところだ。まず、あのピンと伸びた上品な背筋が、薄っぺらいソファに座っていること。そして、その背中の持ち主の待ち人が、切原赤也であることだ。
 メアドを交換したのは、去年のU-17。それからお互い部長になったこともあってそこそこ絡むようになって、この間、偶然にも氷帝と立海の休みが同じだと言うから、ダメ元で二人でテニスをしないかと誘いをかけてみたのだ。ダメ元、というのは日吉の性格故だろう。しょっちゅうメールを送る赤也に対して、日吉からは必要事項以外は送られてこないし、雑談を振っても返ってくるのはせいぜい相槌くらいだ。だから、日吉は赤也のことが苦手か、もしくは茅と関わるのが嫌なのだろう、と思っていた。
 だから、返ってきた「わかった。東京か、神奈川か?」という、相変わらずの淡泊なメールにも関わらず、妙に嬉しかったりするのだ。


「悪い、遅れた。」

「いや、大して待っていない。」


 そういいながら本を閉じる日吉が、らしいなあ、と思う。柳が持っていそうな和柄のブックカバーに包まれた大きめの本は、隣に置いてあるスポーツバックに収納された。ついそれを追ってしまった視線に気づいた日吉は、一瞬驚いたように眉を上げてから、「おまえが遅れてくることなんて、わかりきっていたからな。」と言って、にやりと笑んだ。それにおおげさに怒りながら向かいの席に着けば、テーブルにはこの店で一番小さいサイズのドリンクしかおいてなかった。


「あれ?日吉、メシは?」

「まだだ。切原は?」

「俺もまだ。」

「じゃあここで食べようぜ。」


 そう言って財布だけ持って席を立つ日吉を追って、赤也も立ち上がる。俺が食べてきたら日吉はどうしたんだろう、と思ったところで、電車に乗って東京まで来る赤也がぎりぎりに家を飛び出して、昼食をとる余裕がなかったことなど簡単に予測がついただろう。U-17でも、赤也はいつも時間ぎりぎりで行動していたのだから。
 昼時らしく並んでいるカウンターの最高尾に並べば、先に並んでいた日吉がひょいとこちらを見下ろした。


「切原、おまえ何にする?」

「んー……そうだなあ。」


 うろうろと少しだけ視線をさまよわせたけれど、すぐに大きめのバーガーとポテトのセットに決める。それを日吉に伝えれば、こくりと頷いて一緒に頼んでおくと言われたので、じゃあ頼むとといいながら財布を開く。とりあえず千円あれば足りるだろうと1枚出そうとすれば、その手を押しとどめられる。赤也よりも少し大きくて節が立っている手の持ち主は、日吉だ。


「いい、このくらいおごる。今日こっち来てもらったからな。」

「え?いや、でも……」


 先輩からなら遠慮なくおごってもらっていたけど、今日初めて遊ぶ、他校の同学年におごってもらうのは何となく居心地が悪い。指先の千円札を無理矢理渡そうとしたときに、タイミング悪く順番が回ってきた。


「あ、」

「いいからおごられとけ。先に席に戻ってろ。」


 その言葉とともに、とん、と背中を押された。振り向けば、ピンと伸びた背筋のまま店員に何事か注文している。安っぽい配色の背景が似合わないことこの上ない。立海にはいないタイプの、強引なおごり方だった。そう、強引だった、けど、スマートだ。あっさりとかわされて、いつの間にかおごられてしまった感がある。
 それにしても、自分で出すつもりだったからそこそこ高めのものを注文してしまったというのに、太っ腹だ。さすが氷帝というべきか。もしやおごり方も、跡部の教育の成果だろうか。何それ氷帝怖い。
 無意味な思考を散らしながら、なんだか落ち着かなくて椅子に座ってもきょろきょろとしていたら、すぐに戻ってきた日吉が、何やってんだ、と呆れたようにいった。


「そわそわそわそわと。少しは落ち着け。」

「いや、だって……」

「すぐにわかったぞ。髪がふさふさしてた。犬のしっぽみたいだな。」


 手触りが良さそうで、感情がすぐにわかる。
 そう言って、いつもの意地悪な笑みより、ほんの少し柔らかく笑うから。
 本当に犬のしっぽじゃなくて良かったと、不覚にもそう思った。



 そわそわ×2






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