10000! | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -
 

時間の流れは遅くて早い
 

「……ねむ、」


 開口一番、である。寝起きがそれとは正直どうかと思う。なんというか、しゃきっとしない。
 眠い、だとか怠い、だとか、なにごともキパキパとしている謙也とは真逆の言葉を、侑士はよく口にした。そして実際、よく言えばおっとりとした、悪くいえば気だるげな言動をよくとる。そんな侑士と謙也が同い年とはいえよくぞまあここまで付き合いが続くものだとは思うが、とにかく15歳になった今も、部活を引退して余裕ができた正月に、侑士は数年ぶりに大阪に里帰りしてきた。
 真逆の性質だからこそ合ったのだとかなんだとか色々理由はあるだろうけど、所詮中学生である自分たちの間にそんな大層な理由付けなど必要であるはずもなく、ただ気が合うからという理由だけで侑士は謙也の部屋に泊まるし、謙也の部屋には数年ぶりの侑士の来訪に合わせてきちんと干した布団が敷いてある。
 そんなわけで、年末から客間ではなく謙也の部屋に泊まっていた侑士の、年明け第一声である。昨日の夜は行く年来る年をみた後も、テンションのあがった謙也につきあってしばらく起きていたせいで寝不足だからだろうか。それなら悪かったとは思うが、それにしてももう11時なのだから、いい加減起きてもいいような気がする。(ちなみに何事も早さをモットーとする謙也は7時には起きた。それでも普段より遅いくらいだ。)


「侑士、おまえ、今の今まで寝てたやろ。」

「うっさい……。ウー、くそ、おまえがちゃがちゃうっさいねん、人が寝てるっちゅーんに……」

「これでも静かにしとったんやけどなあ。」


 くるくるとペンを回しながら言えば、それがすでにうるさいんや、と布団の中からだらりと指をさされる。無意識でしていたペン回しにはたと手を止めて、すまん、と片手を顔の前に構えた。


「にしても、いい加減起きいや。そろそろ昼飯やろ。」

「それはおまえにとってだけで、正月は普通二食や。」

「どーでもええやん。それに、荷造りもせなあかんやろ。」


 そう言って、ペンの先を部屋の隅に置かれたドラムバッグに向ける。3泊にしては少なくまとめてきた侑士の荷物は、それでもそこそこの量がある。侑士の家は明日の午前に東京に向かうと行っていたから、荷造りは今日のうちにしておいた方がいい。そう思って言ったのだけど、のろのろと起き上がりかけていた侑士は、一瞬固まった後、ばったりと再び布団に倒れこんだ。


「侑士?」

「そういうこと言うなやー……。もう荷造りせなあかんのか、いややなあ……」


 あーうーと唸りながら布団を巻き込んで寝返りを打つ侑士に、少し動揺する。いやだ、とはつまり、東京に帰りたくないのだろうか。向こうでなにがあったのか、少し心配になる。


「……氷帝でなんかあったん?」

「は?ああ、ちゃうちゃう。そんな重たーい理由なんかないんやけど。んー……、ただなあ、」


 こっちはぬるま湯みたいにゆっくり時間が流れるみたいに感じるから、楽やったなあ。
 大の時になりながら少し疲れたように笑う侑士に、構えていた分少し気が抜けて、あきれ笑う。こちらに暮らしていたときは、そんなこと言っていなかったくせに。
 むしろ、謙也の家に来る度に、「お前んちはみんながみんなせかせかしとって、こっちまでせかせかしなあかん気になるわ。」とまで言っていたのに。


「せやったら、俺のスピードに付き合わせたるわ。そんなんあっと言う間に吹っ飛ばしたる。」

「………堪忍してぇや。」



 時間の流れは遅くて早い






前へ 次へ