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意外な場所でばったり
 

 これはかなり読みやすいと思う、と教えられた本は、かなりのアウトドア派であり、本は漫画くらいしか読まない杏にとってはかなりハードルが高かった。
 たいていの図書館には入っていると言われたが、もし借りたとしてもほとんど読まないうちに返却期限が来て返すことになるのは目に見えている。
 どうせならいつでも読めるように買ってみよう、と思いたって、近所の大型書店にやってきた。文庫本の棚であっさりと見つけたその本を片手に、そう言えば集めている少女漫画の新刊が出ていたかもしれないと思い至って、少女漫画の棚に向かう。
 本棚と本棚に挟まれた通路をいくつも見遣りながら通り過ぎて、目的の棚を見つけて通路に入る。すると、ほとんどが女性のその通路の中で異彩を放っている、すらりとした長身の人影が目に入った。


     あら?」


 まさか、とは思うけれど。しかし、あんな人がこの世に二人もいるはずがないので、おそらく本人だ。
 少女漫画しかおいていないそこには不釣り合いな、けれど本屋にいること事態には違和感のない立海の本の虫、そして、杏が今手に持っている本を薦めた張本人である柳蓮二が立っていた。
 普段ならためらいなく入り込む通路に、けれど今日はためらって足を止める。知らない仲ではない。というか、学校が違うことを考えれば相当親しい方だ。メールはよくするし、電話もたまにする。どちらかの用事につきあう形で、何度か二人で出かけたこともある。本を薦めてもらったのも、昨日メールで雑談をしていたときだ。
 ただ、だからこそ、どことなく会うのが気恥ずかしい。昨日雑談の中で何気なく薦められた本を、早速次の日に買いに来るなんて、なんだか浮かれているみたい。
 見なかった振りをして、今日はこれだけ買って帰ってしまおう。新刊は明日買ったらいい。そう思ってきびすを返しかけて、けれどどうにも去り難くてもう一度、その人のいる方向に視線を返せば、ふとこちらを向いたらしい彼と、ばちりと目があった。


「……あ、」


 やってしまった。ここで去ったら心証が悪すぎる。こうなったら開き直るしかないとは思うものの、悪あがきのように本を後ろ手に隠しつつ彼の元へ向かう。


「こんにちは、柳さん。」

「ああ。こんにちは、橘。」

「珍しいですね、ここ少女漫画の棚ですよ。」

「そうでもないさ。姉がいるからな、読まないというわけではない。とはいえ、さすがに本屋で少女漫画の棚に来るのは珍しいが。」

「あ、そうなんですか。」


 なんだか意外だ。柳みたいなひとは、少女漫画どころか漫画など読まないものだと思っていた。だから、昨日どんな本を読むのか聞かれたときもすごく恥ずかしくて、「漫画しか読まないんですよ〜」と冗談めかして、今日新刊を買おうとしたそのシリーズの名前だけ挙げたのだ。けれど、お姉さんのものとはいえ読むのだったら、そこまでいやがることもなかったのかな、と思う。


「柳さん、何探してたんですか?」

「昨日橘が薦めてくれた本を。」

「え?」

「姉に持っているか聞いたんだが、持っていないようだったから、練習試合の帰りに寄ったんだ。」


 そういった柳は、これだろう?と本棚からそのシリーズの1巻を抜き出した。
 なあんだ、おんなじなんだ。ふうわりと思わず笑みをこぼした杏は、後ろ手に持っていた本を胸の前に掲げた。


「いつもと逆ですね、柳さん?」



 意外な場所でばったり






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