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留守の間に通りがかって
 

「跡部君、いる?」


 ひょっこりと顔を出したのは、派手な髪色に派手なカラーリングのジャージをまとった小柄な男、山吹中の千石だった。
 これから都大会が始まるというのに、他校に話しかけに来るなんて、奇特な男だ、と思う。千石はダブルスの山吹においてシングルスのエースであるということでそこそこ有名だが、宍戸本人は特に千石と親しいわけではないので、雑談を交えることもなく事実だけを述べる。あいにく跡部は今本部に選手登録に行っている、というそれをそのまま千石に伝えれば、目の前の男は、「あ、そお?」とへらりと笑った。


「何だよ、跡部になんか用あったのか?」

「ううん、大した用じゃないから。あ、でも、千石はちゃんと来てましたよ〜って、跡部君に伝えてもらってもいい?」

「……別にいいけどよ。」



 ちゃんと、ってなんだろう。妙に引っかかって、肩の後ろを流れている髪に手を伸ばしていじる。納得がいかないことがあると出てしまう癖だった。この癖を直すように母親のように注意してくる跡部なら、眉をつり上げながらも何が不満なのか聞いてくるのだが、当然宍戸の癖など知らない千石は、じゃあ、と足を動かした。


「俺そろそろ行かなくちゃ!伝言よろしくね、宍戸君。」

「……ああ。」


 ひらひらと手を振るなれなれしさにどう返していいのかわからず、曖昧に手を挙げることで応えた。跡部はそろそろ帰ってくるだろう。待っていれば良かったのに、とは思うけど、向こうも部長が戻ってくれば集合なのだろう。なぜこんなせわしないときに来たのか少し疑問だったけれど、自分とは対局にあるようななりをしている千石の考えなど一生理解できなそうだったので、その疑問は頭の隅に追いやった。



 *



「あーん?」


 数分後に戻ってきた跡部に先ほど千石が言っていたことをそのまま伝えれば、跡部は最高に凶悪に眉をつり上げた。周りの準レギュラーが怯えている。忍足とは違う意味で跡部に近い位置にいる宍戸は慣れっこだが、周りの部員がかわいそうで、おい、と声をかける。


「跡部、おまえの顔ひでえぞ。その顔しまえ。」

「うるせえよ。あいつ、屁理屈こねやがって。」

「ああ?」

「妙にあっさり了承したと思ったらそう言うことかよ。俺はうちの部に顔をだせっつーんじゃなくて、この跡部景吾に顔を出せって言ったつもりだったんだが。そんなことも理解できない馬鹿だったとはなあ。」


 ああ、やっぱりあの変な時間に来たのは確信犯だったのか。妙に晴れ晴れとした顔をしていたが、宍戸にしてみれば甘い。この怒り狂った帝王が、逃げられたら逃げられたままにしておくはずもないのに。



 留守の間に通りがかって






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