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寝る時間すら勿体ない
ごろりと仰向けに転がれば、その腹の上には軽やかに着地を決めたカルピンが乗った。油断しきっていたせいで衝撃がダイレクトに内臓を圧迫し、思わず「ぐえ」と情けないうめき声を上げる。
「カルピン、おまえ重くなったんじゃない?」
「……なーお。」
思わず顔をしかめながら問いかければ、失礼なことを言われているとわかったのか抗議するようにぴしりとしっぽで腹をたたかれた。ふわふわのしっぽだし慣れているから痛くも何ともないけれど、文句を言うようにそう何度も叩かれると、さすがにちょっと、ムカつく。
「なに、俺が鍛えてないのが悪いとでも言うわけ?いいじゃん、今日くらい寝かせてよ。」
カルピンを抱えあげ、床におろして再び横になった。そもそも今日は久しぶりのオフだから、一日中寝倒すつもりだったのだ。ごろごろと寝倒した夕方の、だるい体を動かしてテニスをする感覚も、それはそれで嫌いではない。だんだんすっきりしていく頭を働かせて、いつもより体が動くような感覚を味わいながらテニスをするのだ。
「な〜お。」
「……んもう、何だよカルピン、しつこいな。」
「コっシマエー!」
「……は?」
今、聞こえるはずのない声が聞こえた。まさか、と思いながら窓の外を見れば、ラケットバック一つ背負った赤髪がなびいた。
「コシマエー!あそびきたでー!」
「遠山?」
まさか、と思ったけど、あいつならやりかねないとふと思う。けれどなぜいきなり。ここ最近は連絡を取っていなかったし、もちろん今遠山が東京にいることについての事前の連絡もなかった。まったく、俺が休みだったからいいけど、いなかったらどうするつもりなんだか。
「いきなりどうしたの。ていうか部活は?」
「ワイ、今日明日部活休みなんや!せやからコシマエに会いとうなって、来てもうた!」
「ふーん。俺、明日部活なんだけど?」
「今日は部活ないんやろ?せやったら今日遊ぼうや!」
恐らく断られるとは思っていないだろう遠山に呆れて、それ以上に断る気のない自分に呆れた。でも仕方ない。あいつとやれる機会など滅多にないのだから。
「また泊まるわけ?」
「あったりまえやん!一晩よろしゅうなあ!」
「えー。お前寝かせてくれないじゃん。」
にやり、お互い笑いあって。
明日の部活は寝不足だろうと苦笑した。
寝る時間すら勿体ない
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