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再会。即・いつも通り。
 

 一日中沈んでいた思考の海からふと浮上したのを見計らったかのように、玄関のチャイムが家に響いた。


「誰だ?」


 母や父はまだ帰ってくる時間ではないし、誰かが訪れてくる予定もない。アポなしで訪ねてきたら乾汁と言い置いてあるし、そうすると宅配便だろうか。目を擦りながらインターホンも確認せずにドアを開ける、と。


「ふむ……。起きてから一日中データ整理をしていた確率は40%、むしろ徹夜だった確率は60%か……。なんにしろ、その格好で客人を迎えるのは感心しないな、貞治。」


 コンビニ袋が似合わない、糸目の幼馴染みが立っていた。


 *


「流石に乾汁を飲ますわけにはいかないしなあ。」

「悪かったな、思いつきだ。」


 思いつきでわさわざ神奈川から東京のはじっこまでコンビニ袋ひとつ引っ提げてやってきた蓮二は、当たり前のように家に上がり込んでリビングで寛いでいた。


「で、どうしたの?」

「もう少し待て。時間になったら外に出るから、まず着替えてこい。」

「ええ?」


 首を傾げて説明を求めても、追いたてるようにリビングを追い出されて(俺の家なのに!)仕方なく自室に向かう。
 部屋に入れば電気を点ける程度には暗くなっていて、おそらく蓮二が来なければ気づかないままだっただろう。こんな風に集中すると周りが見えなくなって自己管理ができないから、視力が落ちるのだと、何度注意されても直せない。部屋のスイッチを押してカーテンを閉める。適当なジーンズとTシャツを見繕って着替えて降りれば、蓮二はリビングではなく玄関に座っていた。


「来たか。」

「外に出るの?」

「そうだ。」


 淡々と、短い会話だけで外に出る。ここまできたら問いかけたところで意味はない。蓮二に先導されるままマンションの付属の駐車場のブロックに座れば、コンビニ袋から出てきたのは棒状の紺色が数本包まれたビニールと、安っぽいライターだった。


「……線香花火?」

「気が早いだろう?」


 夜にきかない目を細めて辛うじて読めた言葉を呟けば、言葉の割に妙に楽しそうな声が返ってきた。


「コンビニに行ったら売っていてな、つい買ってしまった。世間のイベント事を2ヶ月も早く取り入れるような風潮には呆れていたが、これは評価したいな。」

「そうか。」


 表面にはわからないが、ゆるく口の端をあげているところから見ると相当機嫌がいいらしい。持ち手の方が赤い薄紙を大きな男の手ふたつが摘まむ様はいっそ滑稽で、笑ってしまいそうになる。
 火をつけた花火は瞬く間に丸まって、パチパチと火花を散らす。


「そういえば、線香花火には段階によって名前がついているんだ。例えば、今の玉ができているのは『牡丹』という。」

「へえ、そうなのか。ロマンチックだな。この玉なんて、溶融した硫黄や各種不純物が表面張力で球状になったものでしかないのに。」

「……本当にお前は風情がないな。」

「蓮二って、確率とか言ってるわりに文系だよね。」

「うるさい。」



 再会。即・いつも通り。






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